2022年9月23日公開『LAMB /ラム』のネタバレ考察です。
ayumi14
ディズニー関係ないけどいいんすか…
いいんです!!
『LAMB /ラム』は考察ありきの作品です。
鑑賞後に考えをまとめたり、疑問点を調べたりするのに、その内容を書き残さないとあまりにももったいない作品です。
とはいえ謎が多すぎる作品でもありますので、毎度のことながら要点は3つに絞って進めてまいります。
山間に住む羊飼いの夫婦イングヴァルとマリア。
映画『LAMB /ラム』オフィシャルサイト
ある日、二人が羊の出産に立ち会うと、
羊ではない何かが産まれてくる。
子供を亡くしていた二人は、
“アダ”と名付けその存在を育てることにする。
奇跡がもたらした”アダ”との家族生活は
大きな幸せをもたらすのだが、
やがて彼らを破滅へと導いていく—。
しつこいようですが、ネタバレ注意ですので、これから観る予定の方はご了承下さい。
目次
名前から見える役割
『LAMB /ラム』の登場人物はとても少ないです。
マリア | イングヴァルの妻。 寡黙で読書が好き。 亡き娘アダ(人間)の墓前では涙を流す。 |
イングヴァル | マリアの夫。 音楽を聴くのが好き。 夫婦が営む牧場はイングヴァルの実家。 |
ペートゥル | イングヴァルの弟。 かつて成功したミュージシャン。 街で問題を起こすたびに牧場に逃避してくる。 |
アダ | メスの羊3115から生まれた子羊。 頭部と右上半身が羊、 左上半身と下半身が人間。 徐々に言葉を理解するようになるが、 言葉を発することはできない。 |
ayumi14
(イングヴァルとペトゥール、本物の兄弟感強すぎな…)
登場人物の名前については、物語の中で時間をかけてゆっくり明かされていきます。
イングヴァル→アダ→ペートゥル→マリアの順です。
マリアに至っては、ラスト展開の直前で判明するほどでした。
そしてその意図とは、多くの方が勘付いているようにキリスト教にまつわるものです。
ラスト付近でマリアの名前が明かされた時、「やっぱり…!!」と思いましたよね。
それぞれの名前の意味をもう少し深く掘り下げてみます。
聖母マリア。
処女懐胎し、イエス・キリストの母になる。
聖母マリアの夫ヨセフ。
婚約中に妊娠したマリアを受け入れイエスの養父になる。
納屋で徐に大工仕事をするシーンもあり、ヨセフが大工だったことを暗喩している。
名前の由来は古ノルド語で「神フレイによって保護されている者」。
「領主」という意味もあり、代々牧場を経営している一族の者であることがわかる。
キリストの十二使徒の1人でもある初代ローマ教皇ペトロ。
ペトゥールがアダと魚釣りをするシーンがあり、ペトロが元々漁師だったことを暗喩している。
物語の中では「神子羊=イエス」としての存在。
クリスマスの夜に現れたラム・マンによって、メスの羊3115が妊娠した子。
「高貴な」という意味の女の子の名前。
アダの性別は最後まで明かされなかったがおそらく女の子。
ヘブライ語の「ada」には「(救世主が)通過する」という意味がある。
作中では第2章から登場したペトゥールがアダの存在を忌み、殺そうとするシーンがあります。
ある意味健全な考えだと言えます。
久しぶりに会った兄夫婦が半獣半人の子どもを育てていたら、心配するのも無理はありません。
ペトゥールはアダを連れ、山の方へ歩いて行きますが、次のシーンではアダを抱いたままソファで眠っており、それを見つけたマリアは優しく微笑みます。
この間、2人に何があったのか?
これは憶測ですが、新約聖書『ヨハネによる福音書』の中に、イエスがペトロに問答するシーンがあるのでそちらを引用します。
私の羊を飼いなさい。
ヨハネ21章15〜19節
正確には、復活後のイエスはこの問いを3回繰り返します。
恐らくアダとペトゥールが相対した時に、アダの瞳からこのようなメッセージを受け取っているのです。
実際、この1件の後のアダとペトゥールはとても仲良くなり、行動を共にすることが多くなります。
十二使徒の中でもリーダー格であったペトロと同じように、イエスに近しい存在として描かれているのです。
イングヴァルが泣いた理由
アダを大事に育てるマリアとイングヴァル。
アダとマリアを家に残し、1人外仕事をしているイングヴァルが、急に泣き出すシーンがあります。
ayumi14
唐突に泣き出す上に、結構長い…
わざわざ長尺で大の男が泣いているシーンだけを映しているのですから、やはりこちらにも意図があるのでしょう。
ヨセフは貞潔の誓いを立てた婚約者マリアが妊娠していることを知り、とても動揺します。
しかし夢で天使が受胎告知をしたことで自分の使命を悟り、予定通りマリアと結婚するのです。
聖書の中でヨセフに関する記述は大変少ないので、実際にヨセフがどう思ったかはわかりませんが、イングヴァルと同様、戸惑い涙したことがあったと推測されます。
聖書には書かれていないが、恐らくあったであろう出来事をこのシーンで補完したのです。
イングヴァルの場合は、羊のアダの前に人間の娘のアダを亡くしているので、「また子どもを授かった」という喜びの涙にも見えますし、「アダを亡くしたショックでマリアがおかしくなった」という動揺にも見えます。
もしかしたら、イングヴァル自身も嬉しいのか悲しいのかわからない感情だったのかもしれません。
ラム・マンの正体
エンディングで仰天してしまった、まさかのラム・マンの登場。
物語はどんなふうにラストを迎えるのか、自分なりに考えながら観ていましたが、まさかここに来てエイリアンのような謎のキャラが登場するとは思っていませんでした。
ラム・マンが姿を現したのはラストのみですが、実は作品の冒頭から何回か忍び寄ってきていました。
荒い吐息と徐々に近づく視点だけが長いシーンに気が付きましたか?
例えば冒頭のクリスマスの夜の羊舎のシーン。
息遣いが聞こえ、羊たちがそわそわし出したと思ったら、1匹の羊が倒れ込みます。
恐らくこれはラム・マンがやってきて交配したシーンです。
またイングヴァルが羊舎で1人で作業をしている時も、背後から近づいています。
その時はイングヴァルが気づくことはなく、ラム・マンもそれ以上のことはしませんでした。
牧羊犬が執拗に吠えるシーンも、ラム・マンに向かっていたことがわかります。(そして犬はラム・マンによって銃殺されています。)
そしてラストでラム・マンはイングヴァルの喉を撃ち抜き、アダを連れていくのです。
機会はいくらでもあったように思えます。
マリアとイングヴァルは部屋のベッドにアダを寝かせたまま、外仕事をしたりしていました。
その間に家に忍び込んでアダを連れ去る方が、自分の存在を誰にも見られることなく、穏便に済んだはずです。
イングヴァルの喉を一発で撃ち抜くほどなので、それくらい思慮する思考力がラム・マンにはあったと見て良いでしょう。
アダを大切に育てているだけならまだ良かったけれど、母羊を殺したのはマリアの身勝手です。
元々ラム・マンはアダを人間に預ける気だったのか、または自分で育てる気だったのかはわかりません。
もしくは、アダをどうするか、生活ぶりを見てから決めようと思っていたら、マリアが母羊を殺したのでこのような結末になったとも考えられます。
突然子を連れ去るようなひどい所業をするので、見ようによってはラム・マンはキリスト教の異教の神バフォメットとも捉えられるでしょう。
しかしバフォメットは頭が山羊(もしくは鹿など)という設定であり、ラム・マンの角の形状を見る限り、彼は山羊ではなく羊なので、バフォメットとは違う存在だと結論づけます。
もう1点、アダは右腕が羊なのに対し、ラム・マンは両腕とも人間のものでした。
ラム・マンは人間×羊のハーフ、アダはクォーターと考えると発達に違いがあるのは納得です。
しかしラム・マンの瞳が完全に羊なのに対し、アダの瞳は人間のものでした。
アダの瞳は作中で何度も長尺でアップにされるほど、重要な意味を持っています。
アダは言葉を話すことは出来ませんが、ペトゥールが演奏するドラムに惹かれたりするなど、部分的ではあるものの芸術を解する描写がありました。
つまりアダは育て方次第で、人間により近づいていくだろうという希望のようなものを持っていたのです。
しかしラム・マンに連れ去られたことで、その希望は潰えます。
ラム・マンがアダの父親であるのは確実です。
ではラム・マンの出自はどうなっているのでしょう。
これは獣姦によって生まれたと考えるのがオーソドックスです。
現実的には獣姦によって受精することはありませんが、『LAMB』はおとぎ話なので化学的根拠はなくても問題ありません。
そして獣姦は旧約聖書出エジプト記でも記されているほど、太古の昔より重罪とされてきました。
イングヴァルがラム・マンの父親かどうかはわかりませんが、代々牧場を経営しているということは、親族の誰かが獣姦をした可能性はあります。
ラム・マン自身が生み出されてしまったことに対する怒りと、人間(父親)に対する怒りが、このようなラストを生み出したとも考えられます。
イングヴァルだけが殺された理由も「人間の男性」に対する怒りが起点になっているからでしょう。
夫と子どもを失くし、1人になってしまったマリアは、生き残ったので幸運とも言えますが、その心情を思うと決して幸福とは言えません。
イングヴァルがアダのことを「幸せ」と表現したことからも、文字通り「幸せを失ってしまった状態」で物語は終わります。
アダはラム・マンと暮らす方が幸せなのか?
マリアにとっての幸せとは何だったのか?
誰もがエンドロールを観ながら反芻してしまうであろう本作品の意味。
「そもそも深い意味なんてない」という意見もありますが、個人的には細かい描写に意味を見つけて全体像を解釈していくのが好きなので、今回のような内容をしたためました。
映画を観る後の考察の一助になれば幸いです!
以上『LAMB /ラム』ネタバレ考察でした。