ギレルモ・デル・トロ監督作品『ナイトメア・アリー』のネタバレ考察です。
公開延期などを経て日本では2022年3月に公開され、同年5月にはディズニープラスで見放題配信もスタートしました。
ショービジネス界の華やかな光と甘美な闇が誘う、華麗なる迷宮
ナイトメア・アリー|映画|サーチライト・ピクチャーズ
ギレルモ・デル・トロ × オールスターキャストが贈る、サスペンス・スリラー超大作
スタンには俳優として4度のアカデミー賞®ノミネートを誇るブラッドリー・クーパー。スタンの人生を左右する謎めいた精神科医に2度のオスカーに輝くケイト・ブランシェット。さらにトニ・コレット、ウィレム・デフォー、ルーニー・マーラなどオスカー常連の名優に加え、デル・トロ作品に欠かせないリチャード・ジェンキンス、ロン・パールマンといった超豪華な顔ぶれは、超一流スタッフと共に、既にアカデミー賞®最有力の声を集めている。
『ナイトメア・アリー』の魅力|ナイトメア・アリー
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巨匠×豪華キャストの妖艶な世界に胸が躍ります…!!
以下、ネタバレ考察に続きます。
目次
主人公が15分セリフなし、なぜなら…
『ナイトメア・アリー』の舞台は第二次世界大戦前夜。
物語は1939年アメリカ・オクラホマで始まります。
主人公スタンが何者かを殺害し、燃える家屋を後にするシーンです。
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表情や仕草だけで演技をするのはさすがのブラッドリー・クーパー!
緊迫感が伝わります。
この冒頭のスタンの無言については、後半でそれとなく理由がわかります。
吃音(きつおん)とは、なめらかに話すことができない状態を指し、「流暢性の障害」ともいわれます。話すときに音や語の一部を繰り返したり、引き伸ばしたり、言葉が詰まるのが代表的な症状です。発達障害者支援法における支援の対象に含まれます。
大人の吃音とは?その原因、対処法、発達障害との関係などを解説
物語の後半でスタンは、幼少期に吃音症だったことが明かされます。
恐らく成長と共に、吃音症の症状はある程度軽くなっていたのでしょう。
その後スタンは見世物小屋や、カーニバルの仲間たちとコミュニケーションを取り、吃音症の症状は影を潜めていきます。
冒頭の不自然なセリフの少なさは、スタン自身の戸惑いと、その後の彼の変化を強調しているのです。
奇妙なワイプ
シーン切り替え時のワイプでも不自然な点があります。
この切り替えは、冒頭35分のスタンとモリーの会話のシーンで現れます。
会話の後、1人残ったモリーを見つめるようなポジションでゆっくり目を閉じるのです。
そして次のシーンに替わるときには、目を開けるかと思いきや、フェードインで始まります。
このワイプの意味について考えられるのは以下の3説。
- モリーの父親説
この時点でモリーの父親はすでに亡くなっています。
カーニバルの仲間ブルーノによれば、モリーの父親はペテン師だったとのこと。
カーニバルでどのような出し物をして、どのように死んだかは語られませんが、読心術や幽霊ショーのような、その後スタンが始めるようなショーをやっていたのかもしれません。
自分と同じようなペテン師に誘惑されるモリーが心配で、観客と同じくこの物語を観ている説。 - スタンの父親説
物語冒頭で息子の手によって殺されてしまったスタンの父親。
母親が男と出て行った後、スタンを必要以上に厳しく育てたことが明かされます。
父親を憎むと同時に、愛してほしいと願っていた幼少期のスタン。
年老いてベッドから動けなくなった父親を放置して死なせ、家屋に火を放って家ごと遺体を燃やしています。
しかし死ぬ間際に父親が着けていた腕時計を取って、その後肌身離さず身につけているのです。
スタンは深層心理では、大人になってもやはり父親の愛を諦めきれなかったのと同じく、父親もまたスタンを愛していたので、この物語を見つめているのかもしれません。 - 神(ホルマリン胎児)説
見世物小屋では様々な動物のホルマリン漬けが展示されており、その中でも目玉とされるのが胎児(エノク)です。
胎内で暴れたため分娩時に母親を死なせたという(真偽不明の)曰くつきの代物。
ボスは「どこから見ても目が合う」と言います。
一方、物語の随所で語られるのが「神の目からは逃げられない」という概念です。
つまりエノクは神のメタファーで、スタンの行く末を見守ります。
最終的にスタンが流れ着いた別の見世物小屋に、巡り巡ってエノクが置いてあり、「神の目からは逃れられない」というオチになるのです。
なぜならこのシーン切り替えのワイプが、普通の瞬きにしては不自然な形をしているからです。
まるでまぶたが腫れて視界が悪い時みたいな動きをします。
そして画像からもわかるように、エノクは浮腫んでいるのです。
つまり浮腫んだまぶたを動かしながら物語を観ているということ。
見つけた?白ウサギ
白ウサギは何回か劇中に登場します。
冒頭ではピートと寄り添うペットのジョージとして登場、中盤ではスタンの行く手に佇んでいます。
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全編を通して薄暗いシーンが多い中で、真っ白なウサギは目を引きますが、誰もその存在に深く言及しません。
この白ウサギ、『不思議の国のアリス』に出てくるウサギのオマージュなのではないでしょうか。
物語の冒頭で、服を着て人の言葉を発しながらアリスの目の前を横切っていき、彼の後を追っていくことによってアリスは不思議の国の世界へと迷い込むことになる。その後も物語を通してたびたびアリスの前に姿を見せる。不思議の国への導き手である白ウサギは、象徴的なキャラクターとしてサブカルチャーにおいてもしばしば言及の対象となっている。
白ウサギ(不思議の国のアリス)
まず冒頭で出てくるペットのジョージ。
スタンはピートと親しくなり、読心術を身につけていくのですが、そんな二人を見守るのがジョージです。
ここでジョージは、ショービジネスの迷宮に迷い込むスタンを誘っていると言えます。
一方、中盤で出てくるジョージもまたショービジネスのさらに深い闇にスタンを誘っていくのです。
この中盤のジョージ登場後、ジーナにタロット占いをしてもらったスタンは
- 「転落」
- 「選択ミス」
- 「吊るされた男(逆位置)」
を引きます。
危ういショーは辞めた方が良いと諭すジーナの話を聞かず、スタンは「吊るされた男」を正位置に置き換え、
『運命を変えた』
と言うのです。
そして霊媒師のような仕事に手をつけるスタン。
この「吊るされた男」には以下のような意味があります。
吊るされた男のカードが逆位置で開かれると今のあなたの努力が報われず徒労に終わってしまうという可能性を意味しています。
タロットカード【吊るされた男(ザ・ハングドマン)】の意味!恋愛/仕事/問題などの解釈も
正位置で開かれたときと同じように、何かしらの試練と思われるようなことが起こるかもしれませんし、すでに努力を重ねているかも知れません。
ですがそんな努力もどこか報われない要素があります。
吊るされた男のカードが正位置の意味は今は身動きがとれない状態ではあるけれど、その時期にどれだけ忍耐強くこの試練に打ち勝っていくか、その試練を打ち勝つ努力によって得る精神的な成長、二つの意味があります。
タロットカード【吊るされた男(ザ・ハングドマン)】の意味!恋愛/仕事/問題などの解釈も
理不尽な事を押し付けられてると思っていても今は試練の時期だ。
自己犠牲の時期だ。と思ってじっと我慢して粛々と時間を過ぎていくのを待つほうがいいという意味を持ちます。
そしてその結果、後の成功のための基礎となる経験が出来ることでしょう。
つまりこの白ウサギが再び現れた時点ですでに「スタンの努力が報われず徒労に終わってしまう」という運命が決まっていたのです。
しかし本人は「試練に打ち勝っていく」という希望しか見えず、結果的に「選択ミス」、ということになってしまいます。
様々な伏線や考察が散りばめられている『ナイトメア・アリー』。
今回は3点に絞って考察してみました。
ギレルモ・デル・トロ監督の他作品や、原作小説、また1947年の映画『悪魔の往く町』と比較してみるのもおもしろいかもしれません。
以上、ディズニープラスで配信中『ナイトメア・アリー』のネタバレ考察でした!