2001年公開の映画『アトランティス/失われた帝国』についての考察です。
ウォルト・ディズニー生誕100周年記念作品として制作されたにも関わらず、公開当時はディズニー第二次暗黒期の真っ只中!
興行成績は振るわなかったものの後年には再評価されカルト的人気を博しています。
失われたはずの『アトランティス』はなぜ人を惹きつけるのか?
『アトランティス』の不思議な魅力とその謎を解き明かしていきます!
目次
群像劇で魅せる
まずは『アトランティス』のあらすじから紹介します。
言語学者のマイロ・サッチが、世界で指折りの地質学者や探検家を率いて、全長300メートルの巨大な潜水艦に乗り込み、遥かなる海底の旅に出る。
彼らの使命は、失われた帝国アトランティスを発見すること。
しかしその使命が、アトランティスを探すことから守ることに変わり、事態は思わぬ展開に…。
海流のごとく目まぐるしく敵味方が変わる中、マイロが信頼できる人物は一体誰なのか…?
主人公はマイロ、ヒロインはアトランティスの王女キーダ。
しかし脇を固めるキャラクターが濃くて100分では足りないレベルです。
- 絶対何か企んでるボスキャラのローク司令官
- 時にセクシーに時にパワフルにメンバーを率いるヘルガ副官
- 爆破のプロで花屋のヴィニー
- キュートで陽気な機関室長オードリー
- ほぼモグラになりつつある地質学者モール
- 見た目と名前のギャップがすごいDr.スウィート
『アトランティス』は群像劇です。
当時ディズニー映画といえば『リトル・マーメイド』『アラジン』『ムーラン』など主人公の名前をタイトルとしたものが多い中で、『アトランティス』は主人公マイロ以外の多くのキャラが自立しているのが魅力。
監督はゲイリー・トルースデールとカーク・ワイズ、製作にはドン・ハーンが名を連ねます。
彼らは皆、『美女と野獣』『ノートルダムの鐘』でも共にチームを組んでいるメンバー。
『美女と野獣』『ノートルダムの鐘』も『アトランティス』同様、群像劇に近いストーリーです。
それゆえのデメリットもあります。
それは映画という限られた時間の中で、全てのキャラクターの見せ場を描き切るのが難しい点です。
『アトランティス』でいうと、主人公マイロやヒロインキーダについての掘り下げが甘く、本来視聴者が感情移入するであろうキャラが今いち立っていません。
マイロは言語学者であり、言語に関するズバ抜けた知識はあるものの、コミュニケーションも上手くなく不器用なタイプ。
またキーダも、一行のアトランティス到着から数分は魅力的なシーンがあるものの、その後トラブルによりストーリーから外れてしまうため、登場シーン自体が少ない印象。
少々地味な主人公カップルであることと、脇役キャラが個性的すぎるために、とっ散らかった群像劇になっているのが『アトランティス』の面白い&残念なポイントかもしれません。
裏テーマについて
先述したあらすじにはこのような記載があります。
海流のごとく目まぐるしく敵味方が変わる中、マイロが信頼できる人物は一体誰なのか…?
この『アトランティス』はキャラクターによって目的が大きく異なります。
それがストーリーをより難しくしているとも言えるでしょう。
マイロの目的は、冒険家だった祖父の遺志を継いでアトランティスを発見すること。
キーダの目的は、衰退するアトランティスを救う術をマイロに解いてもらうこと。
ローク司令官以下のメンバーの目的は、アトランティスに眠るとされる無限のエネルギー源を見つけて帝政ドイツに売ること。
ストーリーを追いながら「結局何しに来たんだっけ?」とたまにわからなくなります。
そうこうしている間に映画開始25分で100名以上の乗組員が死んだり、ラストではメンバーは7人しか生き残っていなかったりと、目まぐるしく状況が変わる印象。
ストーリーの軸がわかりづらいのは、『アトランティス』の考察のし甲斐であると同時に、気軽に映画を楽しみたい人にとっては敷居の高い作品になっています。
実は『アトランティス』という作品が伝えたかったことは、ストーリーの最初に明かされています。
それは「人は子孫に何を残して死ぬか」ということ。
言語では「Our lives are remembered,by gifts we leave our children.(直訳:私たちの人生は、子供たちに残した贈り物によって記憶されます)」
これはウィットモア卿がマイロに言うセリフです。
そしてこのテーマは最終的に、キャラごとにはっきりと明暗が分かれます。
マイロの祖父はアトランティスの手掛りを、キーダの父はアトランティスの文明を遺しました。
生き残ったメンバーはそれぞれが豊かに暮らしている様子がラストシーンでわかります。
一方ヴィランであるローク司令官やヘルガ副官は冒険中に死亡し、その存在すら忘れ去られることに。
つまりアトランティスは手段にすぎないということ。
マイロは地上の世界に戻らず、アトランティスに残る決断をしますが、これも「自分が子孫に残したいのはこれだ」とわかったから。
またこのテーマは、『アトランティス』がウォルト・ディズニー生誕100周年の記念作品であることも大いに影響しているでしょう。
ウォルトが遺した功績は計り知れず、それを讃えるかのような裏テーマです。
『アトランティス』という作品全体がウォルトに向けた私的なメッセージだと思うと見え方は大きく変わります。
2023年にディズニースタジオ100周年記念作品として公開された『ウィッシュ』のテーマは「願い」でした。
100年間あらゆる作品の中で「願い」が語られてきており、それをオマージュした作品が『ウィッシュ』です。
しかしそれを現代的な問題にも絡めて表現してしまったことで、ディズニー特有のおとぎ話ではなくなってしまい、その点が少し残念でもありました。
記念作品は特にテーマ選定にこだわっているのは間違いないでしょう。
『アトランティス』も『ウィッシュ』もそれぞれのテーマは素敵ですが、興行的にはどちらもコケているのはある意味おもしろいですね。
パクリ疑惑と作画問題
『アトランティス』が話題に上がる時、かなりの確率で囁かれるのが日本のアニメ作品との共通点です。
例えば宮崎駿監督の『天空の城ラピュタ』や、アニメシリーズ『ふしぎの海のナディア』などです。
キャラクター設定やモチーフの随所が似ているということですが、いずれの作品もベースにジュール・ヴェルヌの『海底二万里』やギリシャ神話があるので似てしまうのは仕方ない面もあるでしょう。
現代文明を超えるテクノロジーや、船での冒険、特殊な石を持つヒロインが共通しています。
ロボット兵の描写がギリシャ神話に出てくる巨神兵に見える人もいるでしょう。
ただ『アトランティス』製作陣が日本アニメに影響を受けたという事実は発見できなかったので、パクリかどうかを論じることはしません。
日本アニメパクリ疑惑についてはこちらも記事でも取り上げています。
また『アトランティス』は他のディズニー作品とは一線を画す作画もクセになります。
この妙に角張ったキャラクターデザイン、何をイメージするかは人それぞれでしょう。
手のデザインなんかクセがありすぎて「これでいいのか?」と思うレベルです。
私はハンナ・バーベラを思い出しました。
『アトランティス』の美術デザイナーを務めたマイク・ミニョーラの独特な画風が生かされています。
マイクはダークホースコミックスの『ヘルボーイ』の作者として知られていて、2012年のピクサー作品『メリダとおそろしの森』の建築物のコンセプトアートも手掛けている漫画家です。
マイクの他作品からもわかるように、ダークな世界観を得意とするアーティストなので、『アトランティス』に与えた影響は絶大でしょう。
ジュール・ヴェルヌやギリシャ神話などの、世界各国で扱われているモチーフと、マイクの唯一無二なデザインのおかげで『アトランティス』はディズニー映画の中で異才を放つ存在になっています。
主人公マイロと、ヒロインキーダと先述しましたが、作中では2人の明確なロマンス描写はありません。
「なんとなくいい雰囲気だな?」くらいでしかなく、ストーリーの基軸を謎と冒険に全振りしている点もディズニー作品では珍しいと言えます。
実はこの『アトランティス』、公開前はアトラクションを導入する計画があったそうです。
フロリダのディズニーランドやマジックキングダムにこの作品をモチーフにした水中や火山のアトラクションを作る予定でしたが、映画の興行不振であえなく断念。
火山アトラクションと聞くと、東京ディズニーシーの『センター・オブ・ジ・アース』を連想する人も多いでしょう。
『センター・オブ・ジ・アース』はジュール・ヴェルヌの『地底旅行』を原作にしているため、『アトランティス』原作のアトラクションではありません。
しかしどちらもジュール・ヴェルヌの小説が原作になっているという点は注目すべきです。
『海底二万マイル』と同様『アトランティス』の世界観をパークで楽しめるのは東京だけ。
次回のインパ前にぜひ『アトランティス』もチェックしてくださいね。