ピクサーの短編集『スパークス奇跡の瞬間』の1作、『誕生日シンドローム』の考察です。
ayumi14
7分の短編なのにきっちり泣かされました……
映画に触れてリフレッシュしたいけど、あまり時間がない、という方にも大変おすすめですので、是非読んでいって下さい!
長編を観て癒されたい方はこちらもおすすめ。
目次
「かっこいいとは こういうことさ」?
まずは『誕生日シンドローム』のあらすじを引用します。
大人になるのは難しい。うまくやっているように見えても、みんな自分の中に子供の部分を潜ませている。ジアは21歳の誕生日に、大人に成り切れていない自分に気づく。この物語は大人になることへの不安と、大人になるまでに誰もが抱える葛藤を描いている。
Disney+『誕生日シンドローム』
姉のニコールとクラブに遊びに来たジアは、年齢的には21歳の大人なのに、不器用でうまくやれない自分にヤキモキしています。
時に励まし合い、喧嘩をし、涙を流しながら、最終的には「21歳」のジアになってフロアに戻っていきます。
作中では子どものジア3人がコートの下で肩車をして、21歳であるかのように見せかけているのですが、ニコールも含め登場人物は誰もジアが「実は子どもである」ことに気づきません。
1歳のジアがショートケーキを手づかみしようとしても、16歳のジアがイケメンに抱きつこうとしても、「ちょっと変な人」くらいの扱いです。
この表現、何かと似ているなと思ったのですが、途中で気づきました。
宮崎駿監督作品『紅の豚』(1992)です。
知らない方のためにあらすじを引用します。
1920年代末のアドリア海は、ファシズムの足音と新たな戦争の予感におびえていた。それは決して「古き良き時代」などではなかった。食い詰めた飛行機乗り達は空賊となって暴れまわり、彼らを相手に賞金稼ぎたちは功を競った。その中に、賞金稼ぎとして最も名を上げていた一匹の豚、ポルコ・ロッソ(紅の豚)がいた。イタリア空軍のエース・パイロットだった彼は、自らに魔法をかけて豚の姿になってしまったのだ。ポルコをとりまく女性たち、手に汗握る空賊との戦い、アメリカからやってきた宿命のライバル、そして全編を彩る空を飛ぶロマン。誇りと金と女のために、命を賭けた戦いが今幕を開ける。
どんぐり共和国そらのうえ店『紅の豚』
つまりジアとポルコが同じなのではないかと思ったのです。
『紅の豚』でもポルコは自分を豚と言い張りますが、周りは彼に対して「豚を見るような目」では見ていません。
作中ではっきりとは名言されていないものの、ポルコの魔法は自分自身にしか見えていなくて、周りに見えているのは人間だという設定でないと辻褄が合わないようなストーリーです。
ジアの場合も同じ。
そしてどちらの作品にも共通して言えるのは、最後は魔法が解けるということ。
ジアは最終的にニコールに励まされ、21歳のジアに戻って、フロアで踊り明かします。
フロアにいる他の人たちを見ていると、実はみんないろんな年齢の子どもであることに気づくのです。
「あぁ、自分だけが葛藤しているわけではないんだ」とわかったとき、自分を受け入れて、少しだけ気持ちが前向きになれる、というメッセージが込められているのではないでしょうか。
ソウルフル・ワールド好きは必見
この『誕生日シンドローム』の監督は、『ソウルフル・ワールド』のストーリー・アーティストであるAphton Corbinです。
ayumi14
どうりで、観た後のソウルフル感が……!!(語彙)
ピクサーと言えば(『トイストーリー』のアンディとリアルタイムシンクロしながら育ってきた世代の私にとっては)CGアニメのイメージが強いのですが、この『誕生日シンドローム』は2Dアニメです。
CGアニメに慣れ過ぎて、2Dアニメをもはやレトロに感じてしまうのですが、『ソウルフル・ワールド』に関連があると考えると納得かもしれませんね。
また絵のタッチだけでなく、セリフも良いのです。
8分のアニメなので、セリフは限られていますが、私が泣いてしまったのは姉ニコールのセリフ。
「うまくやれない」と言ってトイレにこもって泣いているジアに対して、こう励まします。
ayumi14
わ、わたしのことですか……!?(震え声)
この全てを21歳のジアがしているということは、ジアは大分無理していると思います。
私がジアの歳の頃はまだ学生で、バイトして海外旅行に行くか、彼氏と遊ぶことしか考えていなかったので……
でもそんなしっかりしているように見える人にも、実は葛藤があるんだよというのがこの作品のメッセージです。
例え偉人になれなくても、ありのままの人生が素晴らしいというメッセージが込められた『ソウルフル・ワールド』と近い世界観なので、是非見比べてほしいと思います。
タイトルに込められた意図
つまりのこの作品は「20代の葛藤」が表現されていると言えます。
確かに思い返すと、20代の特に前半は「自分が思っていたような大人になれてない…」と焦ったこともあったかもしれません。
逆に邦題『誕生日シンドローム』を解体すると、誕生日+シンドローム(症候群、現象、問題)。
原題・邦題、どちらであっても作品の主軸が理解出来るので、言い得て妙ですね。
『スパークス奇跡の瞬間』はどれもタイトルが少し捻ってあって、それぞれに考察するのも面白そうです。
毎週末にDisney+かAmazon Primeで映画をいくつか観るのですが、「何を観ようかな」とザッピング(死語)している間に30分くらい経っていることがあります。
そんな時にこの『スパークス奇跡の瞬間』シリーズを観て、気持ちをちょっとクールダウンするのもおすすめです。
以上、ピクサー短編『誕生日シンドローム』の考察でした。