2023年4月28日、実写映画『ピーターパン&ウェンディ』がディズニープラスで配信公開されました。
2016年に製作が開始され、なんと脚本に4年もの歳月をかけたにも関わらず、結局劇場公開しないという驚きの作品です。
ayumi14
ジュード・ロウ大好きなので、ずっと待ってたんですよ…
音沙汰ないからお蔵入りだと思ってました
炎上続きのディズニーの新作映画ということで、さまざまな角度から話題の今作。
深掘りしながら楽しんでいきましょう!
目次
黒歴史を実写化するには
ピーターパンと言えば、誰もがイメージするのは1953年のディズニー映画でしょう。
永遠に子供でいられる島で、妖精と空を飛んだり、海賊と戦ったりするドキドキわくわくのアドベンチャー!と思いきや、ディズニープラスの作品詳細ではしっかり注意書きがされている曰く付きの作品です。
この作品には、人々や文化に対する、否定的な表現や横暴な振る舞いを描写したシーンが含まれています。このような固定観念は作品制作当時でも誤りであり、現代においても誤っています。ディズニーでは当該箇所を削除するのではなく、こういった偏見が社会へ与える悪影響を認識し、そこから学び、議論を促すことで、多様性あふれる社会の実現へつなげていきたいと考えています。
Stories matter
しかもディズニープラスのアカウントがキッズ設定だと、『ピーター・パン』は視聴できません。
それほどにディズニーから黒歴史認定されている作品を、なぜいまさら実写化したのかと思いますよね。
ディズニーが特に問題視しているのは、インディアンとの交流のシーンでしょう。
酋長の娘タイガー・リリーを救出したピーターを讃える宴が開催されます。
そこではインディアン式の挨拶や舞踏、キセルの回し飲みなど、いずれも今やタブー視されるものばかり。
ayumi14
子供の時このシーンを見て「煙草ってまずそう」って思ったから、案外教育に悪くないかも…???
その他、個人的にはこのシーンも地雷だと感じましたね。
ピーターがウェンディに影を縫い付けてもらうシーン。
良かれと思って世話を焼くウェンディですが、ピーターの態度はあたかもそれが当然かのように、感謝するどころか文字通りあぐらをかいています。
その他にもインディアンの宴のシーンでは、ウェンディが女の子だからという理由で台所仕事をさせられるなど、特に現代の女性観に則って観ると不快感盛りだくさんです。
タイガー・リリーは出てきますが、インディアンの宴のシーンはなく、一瞬集落が映る程度。
ピーターを助けるお姉さんポジションで、馬に乗って颯爽と走ったり、海賊と戦ったりします。
劇中でもタイガー・リリーがピーターのことを「little brother」と呼ぶシーンがありますし、アニメ版ではピーターとの関係を匂わすような演出がありましたが、『ピーター・パン&ウェンディ』では皆無です。
これはピーターとウェンディの関係においても同様で、ウェンディがピーターにキスしようとするシーンはもちろんありません。
ウェンディもタイガー・リリーと同じで、ピーターのお姉さんポジション。
ウェンディはアニメ版でロストボイーズの「ちいさなお母さん」という役割を得ていましたが、『ピーター・パン&ウェンディ』では「ピーターのお姉さん」の1人というイメージです。
ayumi14
長女タイガー・リリー、次女ウェンディ、長男ピーターって感じ
ピーターを弟キャラにすることで、現代的には問題視されそうな女性観・恋愛観を排除でき、さらに姉2人(タイガー・リリーとウェンディ)の活躍も描けるわけです。
黒歴史を実写化するにあたって、ピーターのキャラ変は必要不可欠だったと言えます。
アンパンマンとバイキンマン
『ピーター・パン&ウェンディ』で注目すべきはジュード・ロウ演じるフック船長です。
アニメ版では忍たまの山田先生みたいなフック船長が、実写になった途端イケオジに見えるのはなぜか。
それは原作の設定に則っているからです。
原作者ジェームズ・マシュー・バリーは以下のように述べています。
「一言で言えば、私が今まで見た中で最もハンサムな男でしたが、同時に、おそらく少し嫌だった」
フック船長|ピーターパンウィキ
つまり、フック船長にジュード・ロウを起用するのは至極真っ当なわけです!!!
ayumi14
閑話休題
『ピーター・パン&ウェンディ』のストーリーでは、ピーターとフック船長の出会いと別れが語られました。
フック船長は少年時代にネバーランドに迷い込み、ロストボーイスを率いるジェームズ少年だった。
後にやってきたピーターとは無二の親友になるも、ある日ジェームズが母親を恋しがったことに腹を立てたピーターに島を追い出される。
ジェームズは母親の元に帰ろうとするが帰れず、海賊のスミーに拾われ、永遠の少年ではなくなった。
この2人の設定は、今作オリジナルですが、フック船長の本名ジェームズは原作にもある設定です。
ラストでピーターとフック船長が一騎打ちをするときに、こんなセリフがあります。
だが想像してみろ
フック船長|『ピーター・パン&ウェンディ』
俺たちのいないネバーランドを
戦いもない
そうともお前がいなきゃ俺を奮い立たせる炎は消える
そしてお前は俺がいなきゃ…
本当の少年はいつか大人になり…
フック船長|『ピーター・パン&ウェンディ』
このフック船長のセリフに呼応するように、ピーターはロンドンに残るように言うウェンディを振り切ります。
またフック船長はアニメ版ではラストでワニと追いかけっこをして消えますが、今作ではスミー共々無事である描写も。
海上を彷徨うフック船長の頭上に、ピーターが乗った船が戻ってくるシーンで幕を閉じます。
これはバイキンマンがいるからこそ、アンパンマンの存在意義があるのと同様。
マニアックな例えを出すと、五星戦隊ダイレンジャーの最終回と同じです。
ayumi14
岡田先生のこの話がとても好きなので、切り抜き貼っておきます…!
(ちなみにダイレンジャーはリアタイで見ていたはずですが、あまり覚えていませんでした)
『ピーター・パン&ウェンディ』では、インディアンや人魚の描写をごっそり削ぎ落とした分、新たなストーリーを補う必要があったのかもしれません。
ピーターとフック船長のその後を描く作品として1992年の『フック』がありますが、2人の過去が明かされるのは珍しいので、意外性があり面白かったです。
メメント・モリ(死を思え)
『ピーター・パン&ウェンディ』でピーターとフック船長の過去が明かされることで、もう一つ追加された要素が「メメント・モリ」です。
メメント・モリ(羅: memento mori)は、ラテン語で「自分がいつか必ず死ぬことを忘れるな」「人に訪れる死を忘ることなかれ」といった意味の警句。芸術作品のモチーフとして広く使われる。
メメント・モリ-Wikipedia
これはタイガー・リリーのセリフから考察ができます。
初めて旅に出た時ひいひいおばあ様に言われたの
タイガー・リリー|『ピーター・パン&ウェンディ』
“足で大地を踏みしめその目で星を見つけなさい
過去を胸に抱き
どこへ行くかはあなた次第”と
ayumi14
ネバーランドにひいひいおばあ様という存在があることにちょっと違和感…!!
これはアニメ版でも同じですが、ネバーランドにいるからと言って年を取らなくなるわけではありません。
年を取らないのは迷子の子供たちのみで、インディアンたちはネバーランドで生活していますが、普通に年老いていくのです。
つまり自身の永遠の子供時代を謳歌しながらも、一方で年老いていく人々を脇目に見ている状態。
またタイガー・リリーのひいひいおばあ様が、「過去を胸に抱き」と表現していますが、過去とは子供にはないものです。
今作でも親友に裏切られた過去に囚われているフック船長に対して、過去を振り返ることなく追い詰めるのがピーター。
過去という負荷がない分、ピーターの方が文字通り身軽に見えました。
自分自身が確実に死に近づいていくフック船長と、死を思うことはあっても自分には関係ないと思っているピーターの対比構造で、より強く「メメント・モリ」が浮き彫りになっています。
『ピーター・パン&ウェンディ』を大人が観た時に切なく感じてしまうのは、おそらくこの「メメント・モリ」の要素があるからでしょう。
個人的にはとても良いエッセンスになっていたと思います。
黒人俳優のティンカーベルや、ロストボーイズに女の子も混ざっていることが公開前だった今作。
蓋を開けてみると、ロストボーイズにはダウン症と思しき俳優もいたり、女海賊が異様に多かったりと、ディズニーのポリコレ配慮が炸裂していました。
アニメ版ではティンカーベルはちょっと意地悪でやきもち妬きの女の子だったのに、今作ではただの親切な助っ人キャラ的妖精だったりと、ポリコレ配慮はしたものの、キャラ立ちしなくなっていたのはちょっと寂しかったです。
またピーターが弟キャラになったことで、彼のヒーロー的な役割は弱まり、自意識過剰な性格は鳴りを潜めていました。
一方でフック船長に襲撃されウェンディとはぐれた後に再会した際に「生きてたんだ〜!」とあっけらかんと言うシーンはアニメ同様に採用されていて、ただの無神経なお子ちゃまのような印象。
ピーター・パンを主題にした実写作品はたくさんあるので、他と差をつけようと思ったらこのような改変も仕方ないのかもしれませんが、作品全体の魅力も部分的に欠けてしまっているのが悲しかったです。
今後まだ『リトル・マーメイド』『ホーンテッド・マンション』など実写映画の公開を控えているので、正直ヒヤヒヤしています。
各作品についてもまた考察していきますので、何卒ご贔屓に!
以上、『ピーター・パン&ウェンディ』のネタバレ考察でした。