2002年公開『カントリー・ベアーズ』の考察です。
ディズニーランドの人気アトラクション『カントリーベア・シアター』をモチーフにした実写映画にも関わらず、製作費の50%の興行成績しか残せなかった本作。
アトラクション原作の実写映画の中でも、特に闇が深い作品です。
しかしこの作品の失敗があったからこそ、後にあの大ヒットシリーズを生み出せたとも考えられます。
実は隠された魅力が満載のこの作品を紹介していきます。
ちなみにちょっとネタバレありです!
目次
子どもだましなのか
人間の子供として育てられた子グマのベアリーは、自分が家族と似ていないことを不思議に思っていた。
ある日、自分が養子と知らされてビックリ!ショックのあまり家を飛び出したベアリーは、あこがれていた伝説のスーパーバンド「カントリー・ベアーズ」のメンバーと出会う。
そしてバンドの復活を賭け、ベアリー達は楽しい音楽とトラブルいっぱいの大冒険の旅へと出発した!
パッケージにはクマ、クマ、クマ。
クマのクマによるクマのための映画かと思いきや、違います。
この映画の世界は人間とクマが共存している世界です。
この時点で設定に入り込めない人もいるかもしれません。
実際映画の作りとしても、オープニングから本編に入ってすぐまでは「クマだけの世界の話」だと思わせる演出です。
しかし主人公ベアリーが「ママ、僕養子なの?」と聞いた途端、カメラが引いて人間たちが映ります。
この裏切りにまずビックリ。
そしてベアリーは憧れのバンド、カントリー・ベアーズのメンバーたちに会うために旅に出ます。
メンバーたちはそれぞれに問題を抱えた状態ですが、その全てを音楽で解決して、最後には無事に再結成ライブを果たすのです。
各地でミュージカルシーンが差し込まれ、そのどれもが華やかで思わず踊り出したくなる楽曲ばかり。
公開当時ディズニーが売り出していたシンガーソングライターのクリスタルが本人役で出演するシーンはとてもキュートです。
またダイナーでジェニファー・ペイジ扮するウェイトレスが歌い出すシーンは劇中劇の様相で、ダンスショットも最高。
そのほかにもエルトン・ジョンが端役で出演していたり、エンディングでは名だたる歌手がベアーズについてインタビューを受けている様子が見られたりと、むしろクマ以外がめちゃくちゃ豪華です。
(ちなみに主人公ベアリーの声は『A.I』(2001)で一世を風靡したハーレイ・ジョエル・オスメントくんなので、実はクマも豪華です。)
つまり『カントリー・ベアーズ』は子どもだましのファタジーではなく、大人こそその価値がわかるように作られた、大作(になるはずだった)映画だと言えます。
カントリーミュージックとクマ
カントリーミュージックについて、どのようなイメージがありますか。
東京ディズニーランドの『カントリーベア・シアター』に行ったことがある方なら、アトラクションで流れる音楽を想起するでしょう。
個人的にはバンジョーをかき鳴らすイメージもあります。
しかしカントリーミュージックとは、本来もっと懐の深いジャンルです。
それはこの『カントリー・ベアーズ』を観ても感じられるでしょう。
なぜなら、劇中歌のほとんどが所謂カントリーミュージックに聞こえないからです。
カントリー・ミュージック(country music)は、1920年代にアメリカ合衆国のバージニア州ブリストル市で発祥した音楽ジャンルです。
このジャンルは、主に南部やアパラチア地域の音楽スタイルに根ざしており、フォーク音楽やブルーグラス、ウエスタン音楽などの影響を受けています。
これだけではよくわかりません。
実はカントリーミュージックは1980年代以降はダンス音楽としても広まりました。
ラインダンスやツーステップなどの振り付けが人気を博したのもこの頃。
また、ポップやロックなど他のジャンルとの融合も進み、現代のカントリーミュージックは多様なスタイルを持つようになっています。
実はあのテイラー・スウィフトもデビュー時はカントリー歌手だったというから驚きです。
話を『カントリー・ベアーズ』に戻すと、伝説のバンドベアーズが解散したのは1991年。
逆算するとカントリーミュージックの過渡期に活躍したバンドとも言えるでしょう。
そのため音楽性が所謂カントリーミュージックとは違うように聞こえるのかもしれません。
では、なぜクマがカントリーミュージックを奏でるのか。
これは映画というよりも、原作となったアトラクションの方に理由があります。
『カントリーベア・シアター』は1971年にアメリカのディズニーランドにオープンしました。
しかしこのアトラクションは1960年代に計画されていたスキーリゾート施設内に設置する予定だったもので、ウォルト・ディズニーが最後に関わったアトラクション計画の1つと言われています。
施設はカリフォルニアのセコイアに建設予定で、アトラクションは「地元のクマによる音楽ショー」というコンセプトだったそうです。
このアトラクションがカントリーミュージックを扱うようになった経緯は不明ですが、1960年代はテレビの普及でカントリーミュージックの人気が全国区に広がった時期でもあるので、それも大きな要因でしょう。
このような流れで『カントリーベア・シアター』では、所謂カントリーミュージックらしい音楽が流れる一方、映画『カントリー・ベアーズ』では一見するとカントリーミュージックらしさがなくなっているのです。
しかし懐の深いカントリーミュージックだけあり、クマが演奏していようがもはや不自然さがないという驚きの展開を見せています。
夜明け前の闇
アトラクション原作のディズニー映画はいくつも存在します。
代表的な作品はいずれも2003年に公開された『パイレーツ・オブ・カリビアン』や『ホーンテッド・マンション』です。
しかしこれらヒット作より前に公開されたアトラクション原作の映画が3本あります。
同名のアトラクションが原作のテレビ映画『タワー・オブ・テラー』(1997)、スペースマウンテンが原作の『ミッション・トゥ・マーズ』(2000)、そしてこの『カントリー・ベア』です。
『タワー・オブ・テラー』は現在どの配信サービスでも視聴することができないため、幻の作品と言われています。
『ミッション・トゥ・マーズ』は公開時は話題になったものの、直後に失速してからは評価と共に低迷、監督がゴールデンラズベリー賞にノミネートされるまでになりました。
ここまで続けて転けていたにも関わらず、なぜ『カントリー・ベアーズ』を製作してしまったのか?
それは当時のウォルト・ディズニー・ピクチャーズ幹部がゴリ押ししたからだと言われています。
家族と『カントリーベア・シアター』を訪れた幹部が「これを映画化しよう」と提案し、周囲は懐疑的だったもののプロジェクトは進行したそうです。
ちなみにこのゴリ押し幹部は、後に『トゥモローランド』(2015)『プーと大人になった僕』(2018)の製作総指揮となるブリガム・テイラーでした。
彼は『ジャングルブック』『わんわん物語』の製作にも携わっているので、とにかく実写化にこだわりがあるようです。
話を戻しますが、『カントリー・ベアーズ』の後の実写映画ではヒット作を連発していることから、本作が夜明け前の闇の部分だったことがわかります。
ディズニーアニメの系譜でいうと、『コルドロン』あってこその『リトル・マーメイド』と同じです。
ちなみに現在のディズニー実写映画はというと、2024年末に『ライオン・キング:ムファサ』の公開を控える他、諸事情により公開延期となっている『白雪姫』など話題作が続きます。
しかし2023年に公開した『ホーンテッドマンション』『リトル・マーメイド』がいずれも興行的には失敗していることから気の抜けない状況です。
とはいえ、近年のポリコレ絡みのディズニー炎上に比べれば「単純につまらない」と言われるだけならむしろマシだと感じてしまいます。
『カントリー・ベアーズ』はミュージカル好きにはもちろん、1970〜80年代に青春を過ごした方にもおすすめできる作品です。
またマペットで有名なジム・ヘンソンのカンパニーが製作協力しているだけあり、CG実写にはないモフモフ感が存分に味わえます。
マペット好き、しかもメイヘム好きとしてはこれ以上ないご褒美のような作品でした!