シンデレラがネズミと話せる理由|1950年版『シンデレラ』考察

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ayumi

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This is the way.

ディズニールネサンス育ち。
『アラジン』は一生で一番多く観た映画になる予定。
ディズニーとスターウォーズ界隈を行ったり来たりしています。
YouTubeも更新したりしなかったり。

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今回は『シンデレラ』の考察です。
以前にAmazon Primeオリジナル版『シンデレラ』との比較考察をしましたが、今回は1950年ディズニー版『シンデレラ』単体の考察をします。

実はディズニープラスの『シンデレラ』がリストアされ、4K HDRにアップデートされました。
あまりの違いに驚愕しますよ!

解像度がグンと上がり、ストーリーやキャラクターの見え方も大きく変わった印象です。
実は今までシンデレラ自体はあまり好きなキャラではありませんでしたが、4K HDRで観た後には完全にシンデレラ推しになっていました。

映像が鮮明になっただけでなぜシンデレラを好きになれるのか?
またシンデレラとネズミたちの謎の関係についても詳しく考察していきますので、お付き合いください。

主張と皮肉

シンデレラと言えば、どんなイメージが一般的でしょうか。
継母に虐げられていたが、魔法使いに助けてもらい、最終的には王子様と結婚できた、いわゆる「シンデレラストーリー」のヒロインを想像するかもしれません。

物語の大筋は確かにその通りですが、『シンデレラ』では随所で彼女が主張をするシーンが盛り込まれています。

  • 「朝食にいたずらをしたのは自分ではない」と継母に言う
  • 継母から課された罰(掃除等)が理不尽だと言う
  • 舞踏会に自分も行く権利があると言う
  • ドレスが準備できたので舞踏会に行くことを伝える

1つ1つは大したことないように聞こえますが、実際にそのシーンをよく見ると、シンデレラの主張の強さがわかります。
相手があの継母なので、一喝されて終わりになることが多いので印象に残らないのかもしれません。
それぞれのシーンでシンデレラは語気だけでなく、目もとても強く主張してます。

舞踏会について「なぜ行ってはいけませんの」と主張するシンデレラ

またシンデレラはユーモアに富んでおり、ところどころで嫌味を言うこともあります。

  • ルシファーに対して「おねむのルシファー様には早い朝食はご迷惑でしょうけど…」
  • ルシファーについて「悪者にもひとつくらいいいところはあるわ」
  • 義姉について「これであの歌のおけいこもきっと終わりよ」

さすが「信じていれば夢は必ず叶う」と唱え続けているシンデレラ。
あの厳しい暮らしの中でも、塞ぎ込むことなく楽しく生きている姿勢が、見ていて爽快です。

ディズニーの『シンデレラ』は、フランスの文学者シャルル・ペローの『サンドリヨン』がベースです。
個人的にはそのフランス由来の皮肉が、シンデレラの性格にも残っているのではないかと考えています。

こと、ルシファーに対しては皮肉を言うことが多いだけでなく、行動にもシンデレラの気持ちが表れています。
朝、ルシファーを起こす際には、直射日光をルシファーに当てることで起こしていました。
しかし犬のブルーノを起こす際には、「起きてブルーノ」と言いつつも、日光が直接当たらないよう影になる位置に立っています。

シンデレラの影と重なるブルーノ

シンデレラは家族から召使いのような扱いを受けていようと、決して卑屈になることはありません。
でもそれは一般的な「素直で純粋なシンデレラ像」とは少し違うように見えます。

自分と敵対している者には少し冷たく、逆に自分が愛着を持つ者に対しては優しく接する、はっきりと分け隔てをするのがシンデレラのキャラクターです。

その姿勢が、シンデレラの主張と皮肉に込められています。

ネズミだけがしゃべる理由

シンデレラを援護するキャラクターは、主に動物たちです。
中でも特に仲が良いのがネズミたち。
動物たちとのコミュニケーションが上手いシンデレラですが、特にネズミたちとは人間の言葉を交わしています。

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他の動物たちはしゃべらないのに、なぜネズミだけ?

これはずばり、シンデレラがネズミたちの名付け親だからです。

『シンデレラ』の冒頭で、ネズミ取りに掛かった新入りにシンデレラが名前を付けるシーンがあることからわかります。

まだネズミ然としているガス

ちなみにこのガス、英語版では「オクタヴィアス、だけど呼び名は“ガス”」とシンデレラが名付けています。
「Octavius」とはラテン語で「8番目の男の子」という意味なので、シンデレラはきちんとネズミの頭数を把握しているのでしょう。
ラテン語由来の名前を付けるところに、本来貴族の娘で上質な教育を受けてきたことがわかります。

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でも犬のブルーノは名前があるのに、なぜしゃべれないの?

それはブルーノに名前を付けたのが、シンデレラではないからです。
オープニングで生前の父と庭で戯れるシンデレラが映るシーンがあります。
そのシーンにブルーノがいるので、名付け親は父なのでしょう。

若かりし頃のブルーノ(右端)

名付け親は英語でgodmotherです。
godmotherには「後見人」「実親の死後に子供を保護する人」「代母」という意味があるので、シンデレラはネズミたちの代母のような存在でしょう。
フェアリー・ゴッド・マザーは、具体的にシンデレラの名付けに関わった描写はありませんが、彼女を陰ながら見守っていた様子から、「シンデレラの後見人」と言えます。

逆にルシファーの名付け親が継母だとしたら、継母とルシファーはもしかしたら言葉を介してコミュニケーションを取れていたのかもしれません。

信じるvs信じない

『シンデレラ』の劇中で印象的な曲と言えば『ビビディ・バビディ・ブー』。

アカデミー歌曲賞にもノミネートされた

久しぶりに吹替版を観ていて、この歌詞に度肝を抜かれました。

魔法を信じなくても ビビディ・バビディ・ブー

『ビビディ・バビディ・ブー』|『シンデレラ』より
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信じることが大事!とあんなに言っていたシンデレラに対してこの歌詞!!

しかもこの歌詞を歌う時、フェアリー・ゴッド・マザーはシンデレラにわざと言い聞かせるような仕草をします。
英語版での歌詞も引用しましょう。

It’ll do magic, believe it or not.
(信じられないかもしれませんが、魔法がかかります)

『Bibbidi-Bobbidi-Boo』

つまりフェアリー・ゴッド・マザーは、シンデレラが言う「例え辛い時も信じていれば夢は叶うもの」を覆してしまっています。

厳しい環境に身を置きながらも、「夢を信じること」を信条としているシンデレラに対して、フェアリー・ゴッド・マザー曰く「信じなくても」杖を一振りするだけで魔法はかかってしまう。

一見、この対比はえげつないように見えますが、フェアリー・ゴッド・マザーは本当は何を伝えたかったのでしょうか。

「信じなくても」と目配せするようにシンデレラに歌う彼女の表情から察するに、おそらくシンデレラ自身も「夢を信じる」と自分に言い聞かせていただけなのかもしれません。
「本当にいつか幸せになれるのだろうか」と疑ってしまう日が増えていたシンデレラに対して、「信じられなくても、あなたは幸せになれるから大丈夫」と安心させるためにフェアリー・ゴッド・マザーは歌ったと考えると見え方は変わります。

歌いかけるフェアリー・ゴッド・マザーと見つめるシンデレラ

シンデレラは劇中では19歳の設定です。
父が亡くなったのがいつかは明言されていませんが、オープニングのシンデレラの描写から考察するに彼女が10歳前後の頃に継母と再婚した様子。
その数年後に父が亡くなっているとすると、シンデレラは5年近くは召使いのような暮らしをしていたと考えられます。
頼れる人もおらず、1人で家事に忙殺されて数年も耐えているとなれば、信条が揺らぐのも無理はないです。

フェアリー・ゴッド・マザーはそんなシンデレラの心境の変化もずっと近くで感じてきたのかもしれません。
どこかでシンデレラに手を差し伸べようと機会をうかがっていたところに、舞踏会の件があり、ここぞとばかりに登場したのがこのシーン。

このように考えると、「魔法を信じなくても」という歌詞は文字通りの意味ではなく、魔法を信じられなくなっても夢は叶うから大丈夫とシンデレラを鼓舞していたのだとわかります。

先述したように、時に強く主張したり、皮肉を言ったりするシンデレラが、実は「夢を信じられない」日もあったと考えると、とても親近感が湧く設定です。
少なくとも一般的な「素直で純粋なシンデレラ像」よりも、グッと共感できるようになるはず。

2024年に実写映画化が予定されている『白雪姫』が、アニメ版から大きく改変されることが話題になりました。

ディズニークラシック作品は公開から半世紀以上が経っているものも多いので、現代の価値観だけで見ると違和感があるのは仕方ないのかもしれません。
しかし今回『シンデレラ』を観て改めて感じたのは、クラシック作品にも時代の価値観では淘汰しえないキャラクター自身の魅力があること。
シンデレラはただ王子を待っているだけで幸せになれたわけではなく、そこに至るまで激しい葛藤の中を生きていたことが端々に感じることができます。
白雪姫やオーロラ姫にもそれぞれ信条があり、それを排除してしまっては“実写化作品”とは言えないのではないでしょうか。

クラシック作品を今一度見つめ直す機会として、ぜひ4Kで『シンデレラ』を楽しんでもらいたいです。

ayumi

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