2016年公開『ズートピア』の考察です。

ayumi14
最近では珍しい全編モフモフの作品!
動物たちが高度な文明社会を築いた世界「ズートピア」を舞台に、ウサギの女の子ジュディが夢をかなえるために奮闘する姿を描いたディズニーアニメーション。
ズートピア:作品情報-映画.com
監督は「塔の上のラプンツェル」のバイロン・ハワードと「シュガー・ラッシュ」のリッチ・ムーア。どんな動物も快適な暮らしができる環境が整えられた世界。
各々の動物たちには決められた役割があり、農場でニンジン作りに従事するのがウサギの務めだったが、ウサギの女の子ジュディは、サイやゾウ、カバといった大きくて強い動物だけがなれる警察官に憧れていた。
警察学校をトップの成績で卒業し、史上初のウサギの警察官として希望に胸を膨らませて大都会ズートピアにやってきたジュディだったが、スイギュウの署長ボゴは、そんなジュディの能力を認めてくれない。
なんとかして認められようと奮闘するジュディは、キツネの詐欺師ニックと出会い、ひょんなことからニックとともにカワウソの行方不明事件を追うことになるのだが……。
第89回アカデミー長編アニメーション賞受賞。
ただのモフモフ映画と侮る事なかれ。
早速考察に入って参りましょう。
目次
テーマは「Try」
作中ではズートピアのことを「誰もが何にでもなれる場所」と表現されます。
それぞれの種が決められた役割を全うする生き方ではなく、個性に合わせて自由に自己実現できる場所という意味です。
主人公のジュディは夢いっぱいでズートピアにやってきた新人警察官。
彼女がズートピア行きの列車の中で聴く曲が『Try Everything』です。
失敗しても挫折しても、“すべてにトライしてみたい”というまさにジュディを表したような曲。
この曲は前述の旅立ちのシーンと、エンディングで印象的に使われています。
- ジュディが警察官として認められる
- ジュディの親が子離れする
- ニックが世間のイメージを払拭する
- ボゴ署長やジュディの同僚がウサギを警察官として認める
- ベルウェザーが肉食動物を排除する
- ガゼルが本来のズートピアを取り戻すよう訴える
これら全てが「Try」です。
それぞれのTryの先に続くのが多様性を受け入れる、本来のズートピアらしい都市の在り方。
Tryの段階は過渡期なので、『ズートピア』に出てくるような偏見・差別を伴う事件が起きます。
ガゼルとヒツジ
『ズートピア』にはあらゆる動物が出てきますが、それぞれの“決められた”役割について、種の特徴と合わせて調べてみました。
種 | スペル | 役割・特徴 |
---|---|---|
ウサギ | bunny (rabbitと違い「うさちゃん」の意) | 農業を営む 生命力、多産の象徴 |
キツネ | fox | ずる賢い セクシー |
ガゼル | gazelle (「成長株の中小企業」という意味も) | 雌雄ともツノが生えている 混合群を形成することがある |
ヒツジ | sheep | 善人、神の子 「黒い羊」=厄介者 |
水牛 | african buffalo | 気が荒い |
ここで注目したいのは「ガゼル」と「ヒツジ」です。

ジュディがズートピアの駅で列車を降りてすぐ、大画面にはガゼルが映し出され「ズートピアへようこそ」と言います。
そしてガゼルは物語の終盤で、肉食動物と草食動物の乖離が起きているズートピアに対して、対立を止めるように声明を出したりもしました。
『ズートピア』にはライオンハート市長やボゴ署長など実際にまちづくりに携わっている役職のキャラクターが出てくるのですが、実際に市民を動かすのはガゼルのような人気者というのがとてもリアルです。
またガゼルという種の特徴として、多種との混合群を形成することがあります。
この習性があるからこそ、人々を惹きつけることができるのかもしれません。
もう1点、ヒツジについて。
『ズートピア』のベルウェザー副市長は実はヴィランでしたが、ヒツジ自体の世間のイメージはとても良いものです。
「迷える子羊」「羊の皮を被った狼」と表現されるように、ヒツジは善の象徴と捉えられます。
「black sheep(黒いヒツジ)」は、厄介者・のけもの・爪弾きものという意味です。
これは白いヒツジの群れの中に、黒いヒツジがいるととても目立ってしまうことが由来だそう。
それを踏まえてベルウェザー副市長に注目してみます。


ayumi14
ベルウェザー、黒い服着てる…!
実はベルウェザー副市長は全編にわたって、黒い服を着ています。
副市長という役職なので、フォーマル=黒を着るのはある意味当然です。
ディズニーの叫び
『ズートピア』は隠れアナ雪が多いことでも有名です。
例えばツンドラタウンでの1シーン。

ゾウの子どもがアナとエルサのドレスを着ています。
またイタチのデュークにも注目。

“夜の遠吠え”を盗んだ件をジュディに責められるシーンで、「ウェズルトン」と呼ばれ「ウィーゼルトンだ」と言い返します。

エルサの戴冠式でダンスに誘ってきたこのウィーゼルトン伯爵と同じやりとりです。
『ズートピア』のデュークは完全に彼のオマージュ。
英語版も日本語版も、同じ声優を起用していることからも、手の込んだ隠れアナ雪と言えます。
そしてボゴ署長がジュディを諌めるシーン。

ここはセリフに力がこもっています。
Life isn’t some cartoon musical
where you sing a little song
and your insipid dreams magically come true.
So,let it go.
人生はアニメじゃない
歌を歌ってもくだらない夢は叶いやしない
だからあきらめろ
吹き替えで観ていると自然な流れなので見落としがちですが、原文で読むとわかりやすいです。

ayumi14
完全にアナ雪を揶揄ってるじゃないですか…
『アナと雪の女王』は人間が主人公の物語ですが、歌と魔法に溢れたファンタジー映画。
一方の『ズートピア』は動物のみが登場する作品ですが、歌も魔法もなく、内容は大変リアルです。
動物が人間を揶揄する、とても皮肉のこもったこのセリフ。
『ズートピア』はディズニーの長編アニメ第1作『白雪姫』から数えて55作目で、その間79年が経過しています。
『白雪姫』もこのボゴ署長の揶揄する「アニメ」の典型です。
『ズートピア』について考察しました。
動物たちの理想郷として描かれるズートピアもまだ発展途中で、今回描かれたような事件や諍いを何度も繰り返して、いつか本当の理想郷になるのかもしれません。
大切なのは互いを認め尊重し合うことで、ジュディの両親のように与えられた“種らしさ”を全うするのも良し、一方ジュディやニックのように“自分らしさ”にTryするのも良し。
互いの考えや生活が透けて見えてしまうSNS時代だからこそ、ズートピアに求められているような寛容さを人間の私たちも身につけたいものです。