ナイトメア・ビフォア・クリスマス考察|サリー・ゼロ・ブギーとの関係、ホリデーナイトメア、ティム・バートンとアニメの歴史から紐解くナゾ

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ayumi

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This is the way.

ディズニールネサンス育ち。
『アラジン』は一生で一番多く観た映画になる予定。
ディズニーとスターウォーズ界隈を行ったり来たりしています。
YouTubeも更新したりしなかったり。

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今回は『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』についての考察です。
ティム・バートンワールドを象徴する美しいミュージカルアニメーション。
ホーンテッドマンションでは毎年「ホリデーナイトメア」としてコラボするほどの人気があります。

この作品が評価される理由や主人公ジャックのキャラクター像について、ティム・バートンの半生を追いながら解き明かしていきます!

ティム・バートン”監督”ではない


ハロウィン・タウン。それは年に一度のハロウィンのお祭りを人間界へ送り出す不思議な町。
しかし、この町の人気者“カボチャ王”ことジャックは、毎年同じように繰り返されるハロウィンの準備にうんざりしていた。
ある日、ジャックは森の中で奇妙な扉を見つける。
そのひとつを開いてみると、そこはハロウィン・タウンとはまったく別の、陽気で明るいクリスマス・タウンだった。
一面の銀世界にピカピカ光るライト、心はずむケーキやツリー、そして優しい人たち。
たちまち、その初めての世界に魅せられたジャックは、彼に想いを寄せるつぎはぎ人形サリーの心配をよそに、自分流のクリスマスを計画する。
ジャックが夢見たハロウィン風クリスマスとは…?

主人公ジャックはハロウィン・タウンの支配者。
人望も厚く、王様然としているというよりは「頼れるリーダー」という印象です。
しかし彼は劇中で度々「支配者」と自称するように、支配欲が大変強い面も。
その気質のせいでクリスマスを乗っ取るという発想が生まれたと言えるでしょう。

ヒロインはサリー。
彼女はビッケルシュタイン博士が創り出したつぎはぎ娘です。
サンタクロース曰く「この町でまともなのは彼女だけ」。
箱入り娘ですが行動力があり、ジャックを慕う健気なヒロインです。

ジャックのペットで幽霊犬のゼロ。
身体がうっすら透けています。
鼻先が光るカボチャになっていますが、この”真っ赤なお鼻”がジャックのサンタクロース計画を助けることに。
赤鼻のルドルフをモチーフにしたキャラでしょう。

ヴィランはブギー。
町外れに住むギャンブル好きの怪物です。
ブギーとジャックは長年の宿敵のようで、普段は会わない様子。
しかしハロウィンにはブギーも参加しているので、全く疎遠というわけではなさそうです。

正直、ブギーの悪役たる由縁についてもう少し説明がほしいと感じています。
なぜならハロウィンタウンの人々自体、モラルが欠乏しているため、ブギーが「おもてなし」と称してサンタクロースを痛ぶったとしてもインパクトに欠けるからです。

そしてこのジャックとブギーの因縁については2005年に発売されたゲームソフト『パンプキン・キング』で明かされています。

ブギーは元々”虫の日”のキャラで、人々に忘れられてしまったためハロウィンタウンに逃げ出してきました。
ハロウィンタウンを乗っ取ろうとするもジャックに阻止され、地下の隠れ家に閉じ込められたとのこと。

乗っ取りといえばジャックもサンタクロースに「もしまた誰かのホリデイを乗っ取りたくなったら彼女(サリー)に相談しなさい!」と怒られていましたね。
因縁を知っても、やはりブギーの凶悪さはあまり伝わりませんでした。

この『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』はティム・バートン監督作品と思われがちですが違います。
監督はヘンリー・セリック、原作やキャラクター設定を手掛けたのがティム・バートンです。
ティム・バートンはディズニー在籍中にこの作品を構想するも、制作の許可が降りずディズニーを退社。
後にヘンリー・セリックがこの企画を復活させ監督を務めたという流れがあります。
ちなみにヘンリー・セリック監督の『ジャイアント・ピーチ』(1996年)でジャックがカメオ出演しているのは、この因縁のおかげです。

ティム・バートンとアニメ

『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』はストップモーションアニメと当時の最新の映像技法を掛け合わせて製作されました。
ストップモーションアニメとは実際の人形を1コマずつ動かしながら撮影する手法のことで、本作は巨匠ハリーハウゼンに倣った伝統的な技法を取り入れているとのこと。

ちなみにこの巨匠ハリーハウゼンは1950年代から活躍した特撮監督で、多くのクリエイターに影響を与えています。
ピクサー映画『モンスターズインク』に登場する人気の寿司店「ハリーハウゼン」も、もちろん彼の名前からとっています。

映画内で使われた人形の数は227体で、主人公ジャックに至っては頭だけで400種類用意されたとのこと。
この惜しみない努力によって、幻想的な唯一無二のダークファンタジーを支えています。

ティム・バートンはディズニー入社後、1982年の『ヴィンセント』で注目を集めました。

この作品はティム・バートンが監督・原案・脚本を手がけた短編映画で、6分のストップモーションアニメです。
実在のホラー俳優ヴィンセント・プライスに憧れる少年の苦悩と妄想が爆発するという少し不気味な内容ですが、公開当時は高い評価を得ました。
バートン自身もヴィンセントのファンであったことからもわかる通り、この作品は自伝的な要素も含まれています。

また『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』後は2005年に『コープスブライド』で再度ストップモーションアニメにチャレンジ。
この作品はバートンが製作・監督を務めており、主演にジョニー・デップ、ヒロイン役にヘレナ・ボエム=カーターというバートン作品ではお馴染みの布陣が揃っています。

同じくバートン監督の『チャーリーとチョコレート工場』(2005年)と同時進行で製作されたこともあり、キャストスタッフが一部重複しているのだそう。
この作品はユダヤ人の民話に基づくストーリーだと言われているが、バートン自身はその自覚がないとも言われており、これに関しては別記事で考察します。(多分)

そして2012年に『フランケンウィニー』では3DCGとストップモーションアニメを掛け合わせて製作。

この作品は1984年のモノクロ実写映画のセルフリメイク作品です。
いわずもがな『フランケンシュタイン』をベースにしたストーリーですが、バートン監督の幼少期をモデルにしていることもあり、『ヴィンセント』と併せて半自伝的作品とも言えます。

「ティム・バートンといえばストップモーションアニメ」というイメージも強いですが、実際手がけた作品数は多くありません。
しかし1つ1つが観客に大きな驚きを与える作品だったので、いまだにこのイメージは世間では一般的だと言えるでしょう。

ジャック=バートン

ここまで挙げたように、ティム・バートンの作品は彼自身のパーソナリティが大きく反映されたものが多いです。
では『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』はどのような位置付けなのか?

結論から言うと「主人公ジャックがバートンの理想の姿」。

ジャックはハロウィンタウンの支配者で、人々に尊敬されるリーダーです。
しかし、その部分に憧れているわけではないでしょう。

ティム・バートンはカリフォルニア生まれで、父は元野球選手です。
高校時代に水球部に所属していたというのは、もしかしたらスポーツマンである父の影響かもしれません。
また彼が育った1960年代のアメリカは同調意識が強くとても抑圧感があったと語っています。
そんな時代の中では、自宅の裏庭でストップモーションアニメを作って遊ぶ内省的な少年は浮いてしまっていたでしょう。
彼なりに懸命に試行錯誤して作ったものだったとしても。

ジャックも作中でクリスマスについてハロウィンタウンの人々にどう理解させるかを1人で悩み続けるシーンがあります。
ここはおそらくティム・バートンの幼少期の経験とリンクしているでしょう。

そしてジャックは「自分がサンタクロースになることで全て解決する」とひらめき、結果的にはクリスマスをお釈迦にしてしまいます。
この描写ももしかしたら、ティム・バートンの何かしらの失敗経験が反映されているかもしれません。

しかしここからが真骨頂。
一瞬落ち込んだジャックですが、秒で立ち直ります。

まぁいいだろう 僕は頑張った

こう言って自分の功績を歌い出すのです。
この切り替えは正直ビックリですが、実はこれこそがティム・バートンの理想の姿なのではないかと思います。

先述の通りこの作品は1980年代から構想されていたものの、ディズニーから許可が降りず、ティム・バートンの手で作れなかった作品です。
この作品が作られた当時、ティム・バートンはすでにディズニーを退社して、ワーナーの『バットマン リターンズ』(1989年)を製作中だったからです。
そもそも『フランケンウィニー』を製作した翌年にワーナーで『ピーウィーの大冒険』を監督していることから、ティム・バートン自身の切り替えの速さもジャック並みだということがわかります。

個人的にはこのジャックのラストの切り替えの速さが不自然すぎると思っていましたが、ティム・バートンのキャリアを追ってみると、全く不自然ではないことに気づきました。
2024年にはまさかの続編『ビートルジュース ビートルジュース』で話題になったティム・バートンですが、『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』の続編は作らないとはっきり明言していることからもディズニーにはもう戻ってこないでしょう。
次回作がどこで発表されるか、その”切り替え”がまた楽しみでもあります。

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