大赤字の名作『トレジャー・プラネット』を今推せる理由

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This is the way.

ディズニールネサンス育ち。
『アラジン』は一生で一番多く観た映画になる予定。
ディズニーとスターウォーズ界隈を行ったり来たりしています。
YouTubeも更新したりしなかったり。

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2002年公開『トレジャー・プラネット』の考察です。
わくわくする冒険やエモい親子愛、CGと手書きを組み合わせた映像美で完成度が高い作品にも関わらず、興行的には大赤字!
制作費の7割しか回収できず、1985年公開のあの『コルドロン』以来の大失態となりました。

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『コルドロン』以来とは、そのすごさがわかりますよね←

しかし『トレジャー・プラネット』は暗黒期ディズニーにおいて、とても挑戦的な傑作と言えます。
今回はこの”トレプラ”の魅力や名シーン、隠された設定について解説しますので、ぜひ最後までお付き合いください。

ディズニーきっての意欲作

実は『トレジャー・プラネット』はリメイク作品です。
1950年にディズニーが製作した初の前編実写映画『宝島』の舞台を宇宙に変えて、アニメ化した作品。
監督は『リトル・マーメイド』『アラジン』『モアナと伝説の海』などを手がけたロン・クレメンツ&ジョン・マスカー。

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2002年の作品だけあってミレニアム感強めです!

流れとしては2001年の『ラマになった王様』の次に公開された作品ですが、同年に『リロ&スティッチ』が公開され大ヒットしたこと、大赤字に転落という事実も相まって不遇の作品と言えます。

しかしディズニーの記念碑的名作『宝島』をリメイクし、なおかつCGと手書きアニメを組み合わせるということは、とても挑戦的な作品です。

まずは『宝島』と『トレジャー・プラネット』の設定を比較しながら紹介します。

  • 『宝島』では物語のはじまりはイギリス西海岸でしたが、『トレジャー・プラネット』では惑星モントレッサに。
  • 主人公ジム・ホーキンスは12歳くらいの幼い少年から、15歳の反抗期の少年へ。
  • ジムと一緒に宝島探しの航海に出る大地主トレローニーとリヴジー医師は、キャラが合体しドップラー博士になりました。
  • スモレット船長は、アメリア船長という女性キャラに。
  • 物語の黒幕である片足の海賊ジョン・シルバーは、サイボーグ化。
  • シルバーが飼っていたオウムのフリントは、変幻自在の謎ペット・モーフ。
  • ジムが宝島で出会う海賊の生き残りベンは、ロボット化。
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一番謎なのはモーフでしょうか…

物語の舞台が宇宙になっただけでなく、キャラクターも人間(ヒューマノイド)だけでなく、動物をモチーフにしたものに変更されるなどSF要素が満載です。
また『トレジャー・プラネット』の世界は科学が発達している一方で、街並みやファッションは中世ヨーロッパのようで、いわゆるスチームパンク的な世界観が構築されているのがファンに支持されている理由の1つでもあります。

また作画の面については、ディズニー・ルネサンス期にも『トレジャー・プラネット』のようにCGと手書きアニメを組み合わせた演出がされることはありました。
例えば1991年『美女と野獣』の舞踏会のシーンが有名です。
一方『トレジャー・プラネット』は劇中の背景の多くをCGで書き上げるなど、質も量も比べものにならないほど進歩しています。
製作費は約1億4,000万ドル。
ディズニールネサンス期(1990年代)の作品群はほとんどが1億ドルかからずに製作されているのに対して『トレジャー・プラネット』にかなりの予算を費やしたのがわかりますし、2014年の『アナと雪の女王』ですら製作費は約1億5,000万ドルです。
当時はピクサーやドリームワークスなどの全編CGアニメがヒットを飛ばしていたので、ディズニーなりのベストを追求していることがうかがえます。

オープニングでジムがソーラーサーフィンで駆け抜ける描写や、航行中に遭遇するスーパーノヴァを回避する流れなど迫力満点なシーンの数々に、CGが見事に活かされています!

すべてを語らない物語

『トレジャー・プラネット』は『宝島』のリメイク作品でありながら、キャラクターだけでなくストーリーの展開も大きく変わっています。

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伏線や謎など、すべてを回収せずに少しの余韻を残すところも面白さのポイントかも!

ストーリーの中で明かされなかった設定をいくつか紐解いていきます。

ジムの父親について

ジムの父親は数年前に出て行き、それが彼の心に重くのしかかっています。
オープニングでジムが5歳くらいの頃の回想シーンがありますが、その時も母親しか出てこないことから、普段から留守がちだった様子です。
ジムは両親が10代のときに生まれたという設定があることから、まだ若い両親が葛藤したいきさつがあったことがうかがえます。
また父親が出て行く際、船に乗って行くことから、おそらく船乗り(もしくは海賊?)だったのでしょう。

「ベンボウ亭」の由来

ジムの母親が切り盛りする「ベンボウ亭」
1950年の『宝島』では「ベンボー提督亭」という正式名称で呼ばれています。
由来は18世紀に活躍したイングランド海軍のジョン・ベンボウ中将。
その伝説的勇姿を元にたくさんの歌が作られ、水平たちが歌い継いだことで有名。
ちなみにベンボウ提督も右足を負傷しており、これがシルバーに引き継がれたのではないかと個人的には考えています。

ピアスの意味

ジムとシルバーはいずれも左耳にピアスをしています。
男性が左耳にピアスをする場合は「男性らしさ」「守る人」という意味を持ちます。
シルバーは「男性らしさ」、ジムは「(母親を)守る人」という意味のように感じます。

ジムのその後

航海での活躍が認められたジムは、宇宙アカデミーに推薦され、作品のラストではその制服で登場。
ジムはシルバーに「一緒に来ないか」と誘われるも断わったことから、海賊のようなアウトローではなく、自ら正しい道を進む決断をしました。
実は『トレジャー・プラネット』自体が、”ジムが語る昔話”という構造を持っています。
元々用意されていたオープニングでは、ナレーションはジムの声という設定でしたが、演出の都合でお蔵入りしました。
アカデミーを卒業後、立派な船長になったジムが船員たちもしくは自分の子どもに語る冒険譚だと考えるとかなりエモいですね。

“宝物”へのリスペクト

『トレジャー・プラネット』は、伝説の海賊ナサニエル・フリントが隠した財宝を探すストーリーです。
オープニングでフリント船長がソーラークリスタルを積んだ船を襲撃した旨が語られるも、彼が盗んだのはあくまで金銀財宝。

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『トレジャー・プラネット』の世界では太陽光がメインエネルギーだから、ソーラークリスタルの方が価値がありそうだけど…

あらゆるものの動力源は太陽光で、船の帆もソーラーセイルと呼ばれています。
科学が進歩した『トレジャー・プラネット』の世界で、あえて金銀財宝という前時代的な物質を探す冒険をするという矛盾。
なぜストーリーの核に前時代的なものを残したのでしょうか。

余談ですが、『ワンピース』でもゴールド・ロジャーが遺した宝(ワンピース)は単純な財宝ではなく別のものではないか?という考察があるようです。
個人的には船に代わる移動手段になる”気球”ではないかという説が好きです。

これについては、やはり『宝島』へのリスペクトがあるからだと考えます。

先にも解説したように1950年の『宝島』と2002年の『トレジャー・プラネット』は、世界観やキャラクターも大きく異なります。
原作小説の『宝島』に関しては1883年に発行された作品です。
2000年代に受け入れられるようにするために、大きな改変があるのは仕方ないことでしょう。
だからこそ舞台を宇宙に変え、SF要素を盛り込むことで、今でも違和感がなく楽しめる作品になっていると言えます。

しかしそこで、ストーリーの目的地を「宝物(金銀財宝)」ではなく、現代風に改変してしまうと、もはやそれは『宝島』へのリスペクトはなくなったと言えるでしょう。
例えば「動力源」「情報」「技術」などです。

「金銀財宝」を追い求めるからこそ、個人間(ジムvsシルバー)のやり取りに終始でき、結果的にキャラクターのバックグラウンドや関係性の物語を組み込むことができます。

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そのおかげでジムとシルバーの親子のような関係に感動することができるわけです!

また「宝物」が「動力源」「情報」「技術」など、いわゆる”価値はあるけど物質ではないもの”になった場合、そこにはあらゆる思惑や人物、引いては組織的な物語が絡んでくることになります。
スタジオジブリの『天空の城ラピュタ』でも、行き着くのは「ラピュタ文明の科学の力」であり、それを狙ってあらゆる人物が交錯しています。
『トレジャー・プラネット』は宇宙での冒険という広いテーマを持ちながら、登場人物や目的は単純化されている点に、『宝島』リスペクトが感じられるのです。

そして何より、「金銀財宝」の方が『宝島』らしいロマンがあると言えます。

よく漫画作品を実写化するときに肝心なのは、原作に対するリスペクトだと言われますが、『トレジャー・プラネット』は最後の最後でこの矜持を保っている稀有な作品です。

近年のディズニー作品は、ポリコレ問題などで話題になることが多く、なかなか作品自体の面白さがクローズアップされることは少なくなっています。
『トレジャー・プラネット』はひとつ前の暗黒期の作品ですが、ファンの間では根強く支持されているので、近年のディズニー作品も20年後には「ディズニー暗黒期の名作」として解説されたりする日が来るのではないかと、ちょっと楽しみになってきました。

以上『トレジャー・プラネット』考察でした。

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ディズニールネサンス育ち。
『アラジン』は一生で一番多く観た映画になる予定。
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