ディズニー・クラシックの代表作『白雪姫』。
世界初の長編カラーアニメーション映画でありながら、公開から90年近く経っても色褪せない普及の名作です。
ayumi14
ディズニーの基本の「き」ですね。
語り尽くされた感もある『白雪姫』を、今回は“女王視点”から楽しんでいきたいと思います。
動画でサクッと観たい方はこちらから。
目次
偉大なる毒親の源
白雪姫の継母である女王。
実は『白雪姫』では、主人公の白雪姫より先にまず女王が登場します。
有名な、鏡に問いかけるシーンです。
このシーン、女王の立ち居振る舞いがリアルで、芝居がかっているように見えます。
それというのも、『白雪姫』はロトスコープという技法で作られているからです。
モデルの動きをカメラで撮影し、それをトレースしてアニメーションにする手法。
ディズニーは逐語的に映像をなぞるのではなく、トレース箇所を選択しつつ動きに誇張を加えることにより、キャラクターの動きにリアリティを付与する方向を選んだ。
ロトスコープ|Wikipedia
なるほど、実写トレース+誇張されているとなれば、女王のあの動きも納得です。
そして女王の動きを見ていると、もう1人のヴィランを思い出しました。
『塔の上のラプンツェル』に出てくるお母様ことゴーテルです。
ゴーテルのソロ曲『Mother knows best(お母様はあなたの味方)』は、彼女の圧倒的な存在感を味わうことができます。
ラプンツェルを納得させるためとはいえ、ここまで出来るのは彼女の才能とも言えるでしょう。
ゴーテルはディズニールネサンス以降、すっかりナリをひそめた毒親系譜を、久しぶりに思い起こさせてくれた貴重なキャラクターです。
しかし前時代の毒親たちと異なる点もあります。
元は魔法の花の力を独り占めできればそれで良かった。
魔法の花の力がラプンツェルの髪に宿ってしまったため、仕方なくラプンツェルを誘拐した。
狭い塔の中だけで、ラプンツェルを多趣味で快活な16歳に育てている。
ラプンツェルの生まれつきの性格もあるが、ゴーテルの教育も功を奏したと考えるのが自然。
また幼少期のラプンツェルと共に塔で寝食を共にしている描写もある。
ラプンツェルの好物「ヘーゼルナッツのスープ」や、遠くに行かなければ手に入らない貝殻の絵の具など、ラプンツェルの好きなものを把握している。
少なくともラプンツェルとゴーテルの間には、親子らしい暮らしが存在していたことがわかる描写が多いのが特徴です。
前時代の毒親、例えば白雪姫と女王には親子らしい暮らしは存在しません。
むしろ、老婆に変身する前の女王と白雪姫がコミュニケーションを取るシーンすらないのです。
『白雪姫』から『塔の上のラプンツェル』まで70年以上の月日が流れています。
毒親系譜の源とも言える『白雪姫』の女王。
戦前だからこそ、最小限の描写でその存在感を見せつけることが出来ましたが、時代の経過と共に変化は必要になりそうです。
女王の本棚から見えてくる裏設定
狩人に豚の心臓をつかまされた女王は、自ら白雪姫のもとへ乗り込むことを決意します。
地下室へ行き、本棚から1冊の本を取り出し何やら薬を調合し始めるのです。
ayumi14
純粋に気になる、女王の本棚にはどんな本が…??
8冊の本が確認できたので、それぞれ調べてみました。
Astrology | 占星術 |
Black Arts | 黒魔術 |
Alchemy | 錬金術 |
Witch Craft | 魔術 |
Black Magic | 妖術 |
Disguises | 変装 |
Sorcery | 魔術 |
Poisons | 毒薬 |
『白雪姫』で女王が使った本は「Disguises:変装」でした。
「Black Arts」「Witch Craft」「Black Magic」「Sorcery」は同義語で、それぞれ「黒魔術」や「妖術」のような意味も含みます。
女王の魔法の習熟度が伺えるシーンです。
そもそも本棚だけでなく地下室自体が埃をかぶっており、頻繁に出入りしている場所ではなさそう。
劣化具合からして数十年前からこの地下室が存在し、必要なときだけ出入りしていたという印象です。
しかし、ここでもう一つの疑問が。
そもそも女王が城にやってきて数十年も経っていないはずなのです。
白雪姫は14歳。
女王は継母なので、長く見積もっても城で暮らしている期間は10年前後です。
なぜあんな古びた地下室や魔術の品たちを女王が持っているのか?
仮説を2つ紹介します。
『ちいさなプリンセスソフィア』に出てくるセドリックのような役職です。
白雪姫の城には元々宮廷魔術師がいたが、なんらかの理由で不在になっており、その部屋や備品だけが残っている説。
女王は元々城の下働きで、王妃が亡くなった後、先王と結婚した説。
地下室や備品は全て下働き時代からこっそり使っていた。
個人的には「宮廷魔術師がいた説」を推します。
地下室の設備の充実具合から考えて、プロが絡んでいないと無理がありますし、王が下働きの女と再婚するとも思えないからです。
これはさすがに考えすぎかと思うので、さらっと流していただければと思いますが、この「宮廷魔術師」の正体が「鏡の中の男」で女王により(宇宙の彼方)鏡の中に閉じ込められている…とするとさらに面白いと思います。
この辺はドラマシリーズ『Once Upon A Time』に影響されている部分も多いので、これくらいにしておきます。
(OUATについては全シーズン観了したら記事を書きます!今シーズン6)
本当の彼女はどっち?
『白雪姫』の物語の折り返し地点が、女王の変身シーンです。
つまり女王・老婆の出番はちょうど半分ずつということ。
ayumi14
確かに見た目以上に、キャラが変わりすぎなんだよなぁ…
女王はさすが女王だけあって気品が高く、プライドも高いことが感じられました。
一方の老婆は、とても俗世的になっており、良くも悪くも親しみやすさすら感じます。
女王の状態では、誰にもつけ入る隙を与えないようなキャラだったのに、老婆になった途端ウィンクしたりカラスをからかったりするのです。
白雪姫のもとへ行ってからも、老婆のキャラは炸裂。
白雪姫にどうにかしてリンゴを食べさせようと話術を駆使しまくります。
こういうクソバイス(クソみたいなアドバイスの略)、老婆心で言う人いるよなぁと2020年代でも共感させる女王の演技は見事です。
このセリフで私はこのキャラを思い出しました。
『天空の城ラピュタ』に出てくる空賊ドーラ。
ヒロインのシータを見て「私の若い頃にそっくり」というあのセリフがフラッシュバックしました。
古今東西、どの老婆キャラも言うことは同じなのでしょう。
話を『白雪姫』に話を戻します。
本性が女王なのか、老婆なのか。
これは「女王」でしょう。
前の項でも書いたように、女王は非常に芝居がかったキャラクターです。
つまり老婆に変身した後は、老婆のキャラクターを演じていると考えられます。
それもどの国でも、どの地域でも「こういう婆さんいるよね」と思わせるような普遍的な老婆像を。
お見事としか言いようがありませんね。