『ラマになった王様』は新しいプリンセス像を提示した意欲作だった!

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This is the way.

ディズニールネサンス育ち。
『アラジン』は一生で一番多く観た映画になる予定。
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今回は2000年公開の映画『ラマになった王様』の考察です。

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タイトルすらうろ覚えという方も多いのでは…??

なんせ2000年といえば、ディズニー暗黒期の超初期と言われる時代。
しかし興行が振わなかったというだけで、作品自体は見どころがあるものも多い時代です。
私は今回記事にするために初めて観ましたが、すぐにハマってしまいました!

超地味、なのに沼のようにハマって面白いこの作品について、暗黒期独特のツッコミどころも含めて解説していきます。
サゲて、サゲて、最後にアゲていくのでご期待ください。
未見の方も絶対観てみたくなるはずです!

ディズニールネサンスの余韻

まずは『ラマになった王様』のあらすじを紹介します。

南米の深いジャングルの彼方。とある国の王様クスコは、ワガママ+イジワル+ゴーマン=超ヤなヤツ。ところが、魔女イズマに毒薬を飲まされて、クスコはラマにっ!?しかも袋詰めにされたあげくに、農夫パチャの村まで運ばれて…。ケンカばかりの最悪コンビは、果たして城に戻れるか?クスコは人間に戻れるか!?グルーヴィなリズムに乗って、パワフルな“ノリ”と“笑い”が大炸裂!!これまでとはまったく違う、新しい感覚のディズニー・エンターテイメント!

ラマになった王様|ディズニー公式

こちらがDVDのパッケージですが、謎の生物(ラマ)、おじさん×2、おばさんというディズニー作品内でも抜きん出て地味で意味不明なヴィジュアルです。

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それでいてギャグテイスト…!?

正直ちょっと胃もたれしそうなラインナップです。
絵面的に誰が主役で、誰がヴィランなのかもわからないレベル。
邦題が『ラマになった王様』なので、かろうじて中央のラマが王様で主役なのだとわかりますが、原題は『The Emperor’s New Groove』(皇帝の新しいグルーヴ)。
いよいよわからなくなります。

しかし、そこを一歩踏み込んで作品に触れると新境地です。

まずオープニングからノリノリの音楽。
原題に“Groove”とあるように、文字通りグルーヴ感たっぷりのオープニングです。

実は本作は1994年のプロジェクト開始時には音楽叙事詩になる予定でした。

その名残なのか、劇中での音楽はどれも印象的で映えるものばかりです。
しかも主題歌はスティングの歌う『My Funny Friend And Me』。
こちらは第73回アカデミー賞歌曲賞にもノミネートされています。

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残念なのは、作中での曲数がそれまでのディズニー作品と比べて少なく感じたこと…

オープニングからグルーヴ感をそのままに話が進んでいくのだろうと期待したのもあり、途中から音楽がフューチャーされなくなるのはちょっと物足りなさを感じます。
この違和感には、本作が元々ミュージカル映画になる予定だったのが制作途中で試行錯誤した結果、現在のコメディに全振りしたスタイルになったことが関係しています。

プロジェクト開始の1994年は『ライオン・キング』が公開された年。
『ライオン・キング』で監督を努めたロジャー・アレーズが、次作プロジェクトとして始めたのが『ラマになった王様』の原型『Kingdom of the sun』でした。
元はディズニーの伝統的なミュージカル・コメディになる予定だったのが、『ポカホンタス』『ノートルダムの鐘』の興行不振などを踏まえてテコ入れされまくった結果、コメディを全面に押し出した、ディズニー史上かつてないほどとっ散らかった作品になったわけです。

『ラマになった王様』は、『美女と野獣』のような“本来の自分を取り戻すストーリー”でありながら、『ヘラクレス』のようなコメディ要素もたっぷり入った、『ライオン・キング』のような新たなディズニー観を感じさせる上質な音楽も楽しめる名作と言えます。

ディズニールネサンスの余韻がすべて詰まった豪華すぎる本作が、なぜカルト的人気に甘んじているのでしょう。

ストーリーにはグルーヴがない

ディズニー作品と言えば、ロマンティックな恋愛要素がお約束。
2010年代以降のディズニーロマン期からは、恋愛要素だけがクローズアップされることは少なくなりましたが、ルネサンス期はまだまだ恋愛は第一要素でした。

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「ディズニーロマン期」とは私が勝手に作った言葉です。詳しくはこちらをどうぞ!

しかし『ラマになった王様』では恋愛要素は皆無です。
物語が類似していると言われる『美女と野獣』に喩えるなら

  • 野獣/主人公クスコ(ラマ)
  • ベル/パチャ(ラマ飼い)

ですが、クスコとパチャの間柄はどちらかと言うと親子や兄弟に近いと言えます。

ヴィランであるイズマも年齢不詳の老いた魔女という設定で、恋愛感情のもつれなどは皆無。
唯一クスコの嫁探しという課題は冒頭で描写されますが、自己愛が強すぎる性格故、誰ともマッチングしないという始末。

先述した『Kingdom of the sun』というプロジェクト段階では、主人公の恋愛要素はストーリーの根幹にあったようですが、試行錯誤の末、それは跡形もなくなりました。

それくらい、『ラマになった王様』は先進的でチャレンジングな企画なのですが、その結果、ストーリーのグルーヴ感が失われています。

まずパチャがクスコを助ける理由が弱い点。

それまでのディズニーなら主役を助ける理由はただひとつ、恋愛感情で良かったはず。
しかし『ラマになった王様』では主役を助けるのは妻子持ちのおじさん。
そして彼が主役を助ける理由が「どんな人間にも良心があるはずだから」

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そんなジミニー・クリケットみたいなこと言われても…

パチャは善良な農夫という設定なので、その純真さが「良心を信じる」というシンプルな理由だけでも命懸けで人を助ける理由になる、と言えばそうかもしれません。
でも個人的にはパチャが性善説を信じすぎている点に感情移入できず、ストーリーにグルーヴを感じることができませんでした。

また、クスコの性格がそれほど悪く感じなかった点も大きいです。
クスコの性格の悪さはオープニングで特に描写されているので、いくつかピックアップします。

  • 仕事は玉座に座ったまま流れ作業でこなす
  • 老人を窓から放り出す
  • 嫁候補たちを堂々とディスる
  • 別荘を作るために現地の住民を追い出す
  • 王室に長く仕えた魔法使いのイズマを突然リストラする

「老人を窓から放り出す」というのは確かに褒められた行動ではありませんが、本作がコメディに全振りしているせいで、ちょっと大袈裟に表現しただけという印象があります。
これはストーリー全般に言えることですが、ワーナーの『ルーニートゥーンズ』のようなコミカルさがあるので、悪行が悪行に見えないという点が大きいでしょう。

イズマをリストラした件についても、イズマの勝手な振る舞いに対する戒めでしたし、なんなら「再就職も世話するから」と言っています。

そもそもクスコが未熟な王なのは、それまで王になるための教育をきちんと施してこなかった周囲のせい。

大人になってから観ると、17歳の若い王がワガママなのは彼自身のせいではないと気づいてしまう分、より感情移入は浅くなってしまいます。

マッチョなプリンセス・クロンク

さてここまで散々『ラマになった王様』をサゲてきましたが、ここからアゲていきます。

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待ってました!

最高の脇役クロンクについての解説です。
本作はクロンクなしには語れません。

本作でストーリーにグルーヴ感が足りないことはすでに解説しましたが、実はこれはクロンクが一因でもあります。
なぜなら脇役のはずのクロンクをフューチャーするあまり、テンポが悪くなっているからです。

クロンクは魔法使いイズマの新人助手で20代後半の筋骨隆々の男性。
イズマは元々クスコを殺すための毒薬を用意していましたが、クロンクのミスでラマになる薬を飲ませてしまいます。
その後もラマになったクスコを始末するよう言われたクロンクが、心の中の天使に助言され、結果的にクスコは生かされることに。
またラストでクロンクはクスコとパチャを殺すよう命令されますが、やはり天使に助言され、イズマを始末する行動に出ます。

物語を通して改心するキャラはそれまでにも存在しましたが、クロンクが特別なのは当初から明らかに悪意がなく、それを製作サイドも強調している点です。

彼の役割はコミックリリーフ。
本作の原型になった『Kingdom of the sun』ではクロンクに該当するキャラはいなかったようなので、コメディ主体の物語に変わっていく過程で生み出されたキャラでしょう。

つまり『ラマになった王様』はクロンクがいてこそ、現在の形に行き着いたとも言えます。

ただ先述したクロンクが出る故のテンポの悪さも然り。
例えば

  • クロンクが飲み物を注いでいる後ろ姿を映すだけで15秒
  • クロンクの心の天使と悪魔のかけあいが何度も登場
  • ジョークが通じずマジレスするシーン

などなど、「このシーンなくてもストーリーと関係ない上に異様に長い」というシーンは大体クロンクが出ています。

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こんなシーンばかりだとむしろクロンクを嫌いになりそうだけど…

そこがクロンクの特筆すべき点です。

ストーリー進行の邪魔ばかりするクロンクが、見事に愛しく描かれています。

この愛しさの要因は、クロンクが『ラマになった王様』の中でのプリンセスポジションだからです。

  • 料理が得意(特にほうれん草のパイ)
  • 動物と話せる(特にリス語)
  • 子供が大好き
  • ジェットコースターを楽しんでしまう

イズマの助手をしているのも、悪行に加担するつもりは一切なく、彼なりに真面目に働いている模様。

続編『クロンクのノリノリ大作戦』で明かされますが、彼は幼少期から父親に厳しく育てられ、「素敵な家族を持って立派な家を建てる」という目標を達成することを命題にしていました。
クロンクは幼少期から料理好きでしたが、それも封印。
父親を喜ばせたい、だけど自分らしく生きたいという葛藤の中でもがく様子が描かれました。
『クロンクのノリノリ大作戦』のオープニングが、彼を象徴しています。

Then you’ll be true to your groove
True to your groove

(そうすれば自分のグルーヴに忠実になるでしょう あなたのグルーヴに忠実に)

『Be True to Your Groove』

この曲、内容はほとんど『Let It Go』と同じです。

ヴィジュアルはまるでマッチョイズムの塊のようなクロンクですが、その中身はとても繊細。
それ故、『ラマになった王様』のような歪んだ世界ではコミックリリーフになってしまうのかもしれません。

今でこそディズニーはポリコレ云々と各所から言われていますが、クロンクが初登場したのは2000年。
もし現代のディズニー作品にクロンクのようなキャラクターが登場していたら、「わざとらしいポリコレ意識キャラ」と吐き捨てられそうですが、2000年当時ではただのコミックリリーフです。

まるでプリンセスのような要素を持ったマッチョな男性というギャップさえも、ギャグの一貫だったと考えると、この20数年で価値観は大きく変わっていることがわかります。

現代ではクロンクをギャグではなく、1人の愛すべきキャラとして受け入れることが可能です。

個人的に好きなのはクロンクがパチャの子供達と秒で打ち解けているシーン。

しかも大人として接しているというよりも子供同士のように自然と遊び始めます。
まさしく「自分のグルーヴに正直に」生きているクロンクらしいと言えるでしょう。

「自分らしさ」に迷った時は、天使と悪魔が出てきて攻防を繰り広げたりもしますが、なんだかんだで良き選択を重ねていくクロンク。
出世を重ね、後年のテレビシリーズ『ラマだった王様 学校へ行こう!』では、主人公クスコと共に学校へ行くという大役を任されています。(ちなみに未見)

いずれにしてもクロンクの重要性は、作品が続くごとに大きくなっていることは間違いありません。
作品自体はなかなか日の目を見ない結果になっていますが、クロンクは根強い人気があり、ミーム化して楽しまれています。

作ってみました

ディズニー暗黒期の幕開けを飾った『ラマになった王様』。

ディズニーらしさを思い切って捨てた意欲作ながら、興行は振るわず1.696億ドル。
前年に公開された『ターザン』は4.482億ドルのなので、その差は歴然です。

あまりにも早く出過ぎたディズニー暗黒期の名作なので、この機会に再評価されることを願っています。

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