ディズニーソングで比較文化#2、今回は『アラジン』の『A Whole New World』です。
ayumi14
私が人生で一番観た映画(になる予定)が『アラジン』……!
2019年の実写も良かったのですが、今回は1992年のアニメ版について考察していきます。
いわゆる“ディズニールネサンス”真っ只中の作品であり、アラン・メンケン作曲ティム・ライス作詞。
『Let It Go』が00年代以降のディズニーソングの代表作なら、『A Whole New World』は間違いなく90年代のディズニーソング代表。
今回も英語/直訳/日本語の順で紹介していきます!
目次
初々しいアラジンに注目
I can show you the world
『A Whole New World』Tim Rice
shining, shimmering, splendid
Tell me princess,
now when did you last let your heart decide?
君に世界を見せてあげるよ
色鮮やかにきらきら煌めいている
プリンセス、教えて
最後に自分の心に素直になったのはいつ?
見せてあげよう
『ホール・ニュー・ワールド』浅川れい子
輝く世界
プリンセス
自由の花を ホラ
アラジンパートです。
「shining, shimmering, splendid」は「the world」にかかる形容詞ですが、「princess」にもかかっている、と考えると素敵だなと個人的には思っています。
またアラジンはアグラバーの問題児で、自分の町のことを決して好きではないはずですが、ジャスミンに語りかけるときは「輝く世界」と言っているところが強がっているようでいじらしく感じます。
I can open your eyes
『A Whole New World』Tim Rice
Take you wonder by wonder
Over, sideways and under on a magic carpet ride
君の目を開けてあげるよ
次から次へ 素敵なところへ連れて行ってあげる
魔法の絨毯で 上下左右どこにでも
目を開いて
『ホール・ニュー・ワールド』浅川れい子
この広い世界を
魔法のじゅうたんに
身をまかせ
単語量にかなり差がありますが、ほとんど同じ意味です。
冒頭から「見せてあげる」「連れて行ってあげる」という表現が目立ちますが、この時点ではまだアラジンはジャスミンを見くびっているように感じます。
ジャスミンはその気になれば1人でお城を出て、町を徘徊するくらいの勇気はある女性です。
初めての恋にちょっと浮かれちゃったかな?と微笑ましく見守りましょう。
A whole new world
『A Whole New World』Tim Rice
A new fantastic point of view
No one to tell us, “no”
Or where to go
Or say we’re only dreaming
完全に新しい世界
新しくて素敵な物の見方
誰も僕らに“ノー”とは言わない
どこに行こうとも
僕らが夢だけ見ると言っても
おおぞら 雲は美しく
『ホール・ニュー・ワールド』浅川れい子
誰も僕ら 引きとめ
しばりはしない
日本語のタイトルが『ホール・ニュー・ワールド』なので、歌の中で「a whole new world」を意訳してもあまり違和感がありません。
「point of view」は直訳すると「視点、観点」なのでそのまま記載しましたが、意訳するなら「立場、身分」と言ったところでしょうか。
日本語だとただ美しい景色にうっとりしながら歌っているだけのように感じますが、英語で読むといかにアラジンが自分の日常を窮屈に感じていたかが垣間見えるようです。
ホールニューワールドは“3人”の歌
A whole new world
『A Whole New World』Tim Rice
A dazzling place I never knew
But when I’m way up here
It’s crystal clear
完全に新しい世界
私が決して知らなかった目のくらむような場所
ここのずっと上にいれば
それは澄み切った水晶のよう
おおぞら
『ホール・ニュー・ワールド』浅川れい子
目がくらむけれど
ときめく胸
初めて
やっとジャスミンのパートです。
歌詞とは関係ありませんが、この歌いだしのジャスミンの表情がたまりません。
英語では「めのくらむような場所」が「澄み切った水晶」のように見えるほど、「point of view」が変わったことを表現しています。
英語では単語数が多いので少々説明的な歌詞になっていますが、日本語だとジャスミンのわくわくした表情そのままの表現に置き換えられていてとても聴き心地が良いです。
That now I’m in a whole new world with you
『A Whole New World』Tim Rice
(Now I’m in a whole new world)
今 私はあなたと完全に新しい世界にいるなんて!
(今 私は完全に新しい世界にいる)
あなた見せてくれたの
『ホール・ニュー・ワールド』浅川れい子
(すばらしい世界を)
雲がソフトクリームになるシーンです。
ジャスミンパートの「That」は感嘆詞として訳すと、彼女の感動がより明確に表現されます。
それに呼応するようにアラジンパートはほぼ同じ歌詞を繰り返しますが、同時に魔法の絨毯も気分が高揚してソフトクリーム飛行をしているので、実はこの歌は“2人”の歌ではなく、“3人”の歌なのかもしれません。
Unbelievable sights
『A Whole New World』Tim Rice
Indescribable feeling
Soaring, tumbling, freewheeling
Through an endless diamond sky
信じられない光景
なんとも言えない感覚
舞い上がって、転がって、自由奔放に動き回る
限りないダイヤモンドの空を駆け抜ける
素敵すぎて信じられない
『ホール・ニュー・ワールド』浅川れい子
きらめく星はダイヤモンドね
前半のサビと同様、ジャスミンのパートはとても詩的です。
英語だと、魔法の絨毯でアクロバティックに飛び回る冒険を楽しんでいる様子が、手に取るようにわかります。
ジャスミンがタイタニックよろしく、手を広げる姿はディズニールネサンス期のプリンセスたちに共通する、好奇心に突き動かされた表情をしています。
A whole new world
『A Whole New World』Tim Rice
(Don’t you dare close your eyes)
A hundred thousand things to see
(Hold your breath; it gets better)
完全に新しい世界
(目を閉じるのは止めて)
たくさんのものが見える
(息を止めて、もっと良くなる)
A whole new world
『ホール・ニュー・ワールド』浅川れい子
(目を開いて)
初めての世界
(怖がらないで)
アラジンパートの「Don’t you dare」は割と強めな静止のフレーズですが、歌い方や表情からはそれは感じません。
ここではアラジンは“アリ王子”を演じているので、ジャスミンをエスコートするような表現が続きますが、実際にはアラジンもアグラバーの町を出たことはなく、少しは怯んでいるはずです。
自分自身にも言い聞かせていると考えると、少し強めの表現であっても納得がいきます。
I’m like a shooting star
『A Whole New World』Tim Rice
I’ve come so far
I can’t go back to where I used to be
流れ星になったみたい
遠くまで来てしまった
かつての場所にはもう戻れない
ながれ星は
『ホール・ニュー・ワールド』浅川れい子
ふしぎな
夢に満ちているのね
英語と日本語で全く違う歌になっています。
ジャスミンは明るい表情で歌っていますが、物理的にも精神的にも「I’ve come so far」という表現から、一抹の寂しさも感じられます。
ロマンティックとエキサイティング
A whole new world
『A Whole New World』Tim Rice
(Every turn, a surprise)
With new horizons to pursue
(Every moment, red-letter)
完全に新しい世界
(驚きだらけ)
追い求める地平線と共に
(すべての瞬間が記念になる)
すてきな
『ホール・ニュー・ワールド』浅川れい子
(星の海を)
新しい世界
(どうぞこのまま)
本文がアラジンパート、カッコ内がジャスミンパートです。
「red-letter」は文字通り「赤文字」転じて「特筆すべき、記念すべき」という形容詞として使われます。
(どうぞこのまま)という日本語では、とてもしとやかな女性像を感じますが、英語の(Every moment, red-letter)だと力強く、ジャスミンのキャラクターイメージにも影響しますね。
I’ll chase them anywhere
『A Whole New World』Tim Rice
There’s time to spare
Let me share this whole new world with you
どこへでも追いかけよう
自由な時間がそこにはある
完全に新しい世界をあなたと分け合おう
ふたりきりで
『ホール・ニュー・ワールド』浅川れい子
明日を
一緒に見つめよう
「I’ll chase them」の「them」は、前フレーズの「A whole new world」に掛かると思うのですがどうでしょう。(自信がない)
「A whole new world」を追いかける、なぜならそこには「time to spare」があるから、という意味。
A whole new world
『A Whole New World』Tim Rice
(A whole new world)
That’s where we’ll be
(That’s where we’ll be)
完全に新しい世界
(完全に新しい世界)
僕たちがいるべき場所
(私たちがいるべき場所)
このまま
『ホール・ニュー・ワールド』浅川れい子
(ふたりが)
すてきな
(世界を)
これほどの単語数の差がありながら、敢えて口数が少ない日本語の方がロマンチックです。
ここでも英語だと「自分たちが今いる環境は、本来いるべき場所ではない」というニュアンスが出ています。
A thrilling chase
(A wondrous place)
For you and me
『A Whole New World』Tim Rice
わくわくさせるチェイス
(驚くべき場所)
あなたと私のための
見つめて
『ホール・ニュー・ワールド』浅川れい子
(あなたと)
いつまでも
「chase」は「追及」という意味ですが、この場合は魔法の絨毯で飛び回ったアクティビティのこと、また「ここではないどこか」新しい場所を追い求める心理の2つの意味があります。
やはりこの部分も日本語はロマンチック、英語だとエキサイティングで真逆の印象です。
『A whole new world』の考察でした。
日本語だと良い意味でムダな言葉がない分、聴き手によって想像する余地が多く、それが特に後半のロマンチックな情景を演出しています。
一方英語では、アラジンとジャスミンが共に「新天地」を求めて旅をしているようなエキサイティングな感覚があり、恋愛の歌というよりもパワーソングのような印象です。
ayumi14
アラジンとジャスミンが「恋人」というよりも「同志」に見えてきました…!
2019年の実写版『アラジン』では、日本語歌詞が新しくなっているので、こちらと合わせて聴き比べるのも面白いですね。
以上、『“ホールニューワールド”って実際どこなの?ディズニーソングで比較文化#2』でした。